09 それが現れた頃

 あそこらへん、道、結構面白いでしょ。

 そう、カーブあってさ。

 最近は街なかだとすぐ警察くるし、信号無視して走っても、それほど面白くねぇなって。

 それで、山あいを走ったり、そこで集会するようになったんですよ。

 あそこ、屋根はあるし、人はいないし、バイク停めるスペースもたくさんあるしで、最高だったんですよ。

 たまにね、廃墟オタクっていうんですか、そういうやつらがいることもあったんで、そんなときは、まぁ、ちょっと脅してから叩き出してましたけどね。

 だけど、いつぐらいからだったかなぁ、ちょっと嫌な感じになったんですよ。


 あれは俺らの前の代の頃なんすけど、頭はってた先輩がよく女を連れてきてたんですよ。

 いや、自分ら、結構、硬派なんで、普通はまぁ、そのびっとしたバイク乗れるような子くらいしかこないんすけど。

 でも、どこでナンパしたのか知らねぇけど、先輩が乗せてくれる子は、そこらへんに普通にいるような子だったんですよ。ていうか、ちょっとお固めのお嬢さまっていったほうがいいんかな? どちらにせよ、場違いなんです。

 ただ、やっぱり……なんていうんすかね、自分ら、殴ったり殴られたりみたいなことも多少はあったわけですよ。いや、若気の至り? ってやつですって。今はそんなことしてませんし、やり合う相手は自分らと同じようなやつばっかりだったんで、まぁ、お互い様ってことで、ね。

 殴ったり、殴られたりって普通、引くっしょ? それなのに、目、輝かせてるんだから、やっぱり、こっちがわの人間だったのかもしれないっすよね。


 えっ、先輩はどんな人だったかって?

 一言で言えば、怖いかな。

 そう、タイセイくん、普段はそれほどでもないけど、キレると怖いの。

 タイセイくん、殴ることにかんしては、かなりいけてるほうだったんですよ。

 容赦がないの。とくにキレたら、とめられない。

 タッパも一八〇くらいあったし、横幅もあるんですよ。それなのに、動きが速いの。それがキレて暴れるんだから、とめられないっすよ。

 いや、怖かったすよ、正直。

 この人と一緒にいると、ガキの喧嘩じゃすまなくなるかも、みたいな。

 実際、タイセイくん、暴力の方の本職になっちゃんですよ、半グレってやつ。

 俺は、ヘタレって思われるかもしれないけど、いくら楽しくても卒業しなきゃいけないものだって思ってたんです。

 卒業したら、真っ当に働く。

 俺も今はちゃんと汗水たらして働いてますし。

 

 ああ、話がそれちゃってすんません。

 いや、そんなほめてもらえるようなことじゃねぇから。

 ほめられると、逆に恥ずかしいっす。

 

 タイセイくんはたまに俺たちに良いバイトあるぞって声かけにきてたんですけど、そのうち、こなくなりました。仕事、あんま、うまくいってなかったみたいです。そりゃ、腕っぷしの強いのは当たり前で……うーん、なんか、俺じゃよくわかんないっすね。やっぱり汗水流して働くの一番っすよ、ビールもうめぇし。

 女の人、ヨウコさんっていうんすけど、ヨウコさんは、タイセイくんがこなくなってから、一度だけ会った、というか目撃したことがあります。

 それがあの廃病院の近くなんすよ。

 会った時期? おぼえてます。

 三、四年前の今頃でしたよ。


 先輩はいなくて、その人だけが、ぺたぺた歩いてくるんですよ、あの廃病院の方から。

 山道を、マタニティドレスってあるでしょう?

 え、うん、ツレがね、これもんで。

 ああ、あざっす。うん、乾杯、生まれてくる子に乾杯っす。

 ええ、そんで俺も頑張んねぇと。

 すんません。話それちゃいましたね。

 そう、マタニティドレス、マタニティドレスみたいなワンピースに薄いカーディガン羽織ってるだけなんすよ。

 絶対、寒いでしょ。ありえないでしょ。

 

 さすがにやべぇんじゃねってなって、単車とめて、事情を聞いたんですよ。

 でも、何言ってるのかよくわからないんすよ。

 空すら見られなかったとか、最初から終わってたとか、泣きじゃくるんですよ。

 そしたら、あの子と遊んであげてとか言い出してね。

 あの子って誰っすかってことですよ。


 ますます、やべぇなってなんたんすけど、そのまま無視して帰るわけにもいかないんで、先輩んちまで送ってたんですよ。

 タイセイくん、いなかったんすけど、まぁ、温かい部屋で寝ていれば安心ですし、変に首突っ込んで、タイセイくんのキレポイント刺激したら怖いですしね。

 それで、その日は解散。


 それからなんですよね、おかしくなったの。

 最初は、なんか、視線を感じるようになったんですよ。

 で、そのうち泣き声が聞こえるようになったり……。

 ……ある日、青白いカエルみたいな何かが見つめていたんですよ、俺のこと。

 俺だけじゃなかったらしくて、徐々にあそこはやばいってなって……。

 そうこうしているうちに、ジヌシ? なのかな? 敷地を施錠して、使いづらくなったし、気味悪いしってんで、気がついたら行かなくなってましたね。

 カエルはあきらめてくれたんだか、しばらくして、来なくなりました。

 でもね、あそこ、行ったら、またついてくると思うんすよ。

 だから、もうあそこは行かないです。ビビリって言われるかもしれないけど、あれはまじでやばいっすよ。

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