桜チル空き家
藤泉都理
桜チル空き家
二千十八年の廃屋の戸数は、三百四十九万戸。
空き家にしておく理由として、「物置として必要」のほか、「更地にしても使い道がない」「住宅の質の低さ」「買い手・借り手の少なさ」「解体費用をかけたくない」「労力や手間をかけたくない」などがある。
空き家の問題として、「住宅の腐朽・破損・倒壊・崩壊・屋根や外壁の落下、火災発生の恐れ」「防犯性の低下」「地震・豪雪・津波などによる損壊・倒壊」「不審者の侵入や放火」「ゴミの不法投棄」「樹木・雑草の繁茂」「害虫の発生や野良猫などの集中」「衛生の悪化、悪臭の発生」「地域の景観への悪影響」などが挙げられる。
国や市町村、国民が空き家の活用方法、税金の控除、解体工事の補助金交付、空き家などの情報を検索できる空き家バンクなどを模索、実行しているが、人口が減少していく中で、増加の一途を辿るのではないかとも言われている。
『空き家政策の現状と課題及び検討の方向性 国土交通省 住宅局 令和四年 十月』より参照。
警察の旭日章は五角形にデザインされており、これが桜の花に似ている事から通称「桜の代紋」と俗に呼ばれる事がある。
桜の代紋が泣いているぞ。
ロッカーの扉に散りばめられている桜の花びらが、そう責めてくる。
警官のくせに、罪を犯して、授けられた桜の代紋が泣いているぞ。
或る日、特殊な力を授かった日から。
いや。
授かった特殊な力を使って、罪を犯した日から。
私のロッカーには、桜の花びらが散りばめられるようになってしまった。
ロッカーを見ていなくとも、まぶたを閉じていようがいまいが、私の視界には常に。
桜の花びらが散りばめられるようになってしまったのだ。
空き家を放置していれば、色々な問題が生じる。
けれど、今の遅々とした対策では空き家問題は解決しない。
だから私は。
私は、この特殊な力を使って、空き家を。
持ち主の許可も得ずに、空き家を小さくしては持ち去って。
ミニチュアとして、フリマで安く売っている。
意外と好評価で、出品した空き家は全部売れている。
誤解なきように言っておこう。
手元に入るお金は全部、寄付している。
全日本交通安全協会に全部だ。
ああ、わかっている。
いくら、私利私欲でないとはいえ、立派な犯罪だ。
いつか必ず、自首する。
すべての空き家をミニチュア化して、売り捌いて、寄付したその日に。
私は必ず、自首をするのだ。
「いいか。いつの日か、あいつが自首してきても、掛け合うな。意味がわかりませんと白を切り通せ。あいつは」
「何も言わんでください。空き家担当部局長。よくわかっています。大丈夫です。あいつが今行っている事は、正義であって、不正義ではありませんので」
「ああ。よろしく頼んだぞ」
「はい」
あいつの上司である俺は、空き家担当部局長に向かって敬礼をしてのち、あいつと一緒に交通整備に行くべく、足を踏み出したのであった。
(しかし、ミニチュア化したとはいえ、そろそろ埋まりつつある。膨大な数の空き家を保管する場所を探さねばな)
(2024.4.12)
桜チル空き家 藤泉都理 @fujitori
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