第13話
大人は時として不器用である。
そして心は時として行き違う。
それはどこまでも果てしなく。
同僚に告白されたことをしれっと告白した星になんとも言えない感情を抱く。
これから10代だったら
もっと可愛くヤキモチを妬けただろう。
『告られた』
のパワーワードがまどかの心を破壊して
可愛くないオンナへと変貌させる。
と言っても責め立てる気持ちはない。
しかし、明らかにターンダウンしたまどかと星は…
可愛くない小さなヤキモチを妬いたまどかの気持ちを知ってか知らずか
2人は小さな喧嘩をするのである。
2人の間にある曲が流れ始める
失恋を歌った曲だ。
なんとなくまどかの中に終わるのかな?
という不安が襲ってくる。
星から
『ごめん。言いすぎた。今自分を整理するためにピアノ弾いてる』
と送られてきた。
『ピアノ?』
と送り返す。
『そう。ピアノ!ピアノ弾くの、好きなんだ』
星の知らない一面を、ほんの一面でも垣間見れるのが素直に嬉しかった。
『私もごめんね。』
2人の縁は切れなかったようである。
2人の会話はピアノのことで持ちきりになる。
どんな曲を弾くのかどんな曲に心を揺さぶられるのか。
会話は尽きることがない。
昔はクラッシックを弾いていたが今はバンドの曲を弾いてることなどを教えてくれた。
まどかは音楽は聴くことは好きであったが演奏する側になったことがなかったので心の底から演奏する側にいる人に尊敬の念を込めていた。
しょうくん、ピアノ弾けるんだ。
知らない一面をまた知れたことが素直に嬉しかった。
やはり星との会話は楽しい。
喧嘩したけど、また一つ知らないことを知れて仲良くなれた気がする
と、まどかは心からそう思った。
生まれたところも住んでる場所も違う2人がすれ違わないわけないのである。
ちょっとしたことで心の行き違いやまどかの待つ心の傷が顔を出す。
心の傷…
それはとても根深い。
ーあれはまだまどかが幼い頃、父親が家をあけがちだった。
幼少期の父親の記憶がほとんどない。
写真を見ると公園に行ったことが写し出されていたが記憶にない。
たまに帰宅する父親は母親に暴力をふるう。
それがそのうち子どもにまで手をあげるようになった。
この時点でもう心の傷である。
しかし、まどかの不幸はここで終わらない。
父親は家をあけてる間に不倫をしていたのだ。
嫉妬に狂った母親はまどかに
心無い言葉を浴びせた。
それも何回も。
まどかは大学進学を機に家を出た。
実家に未練はなかった。
『私にはもう帰る場所が無いんだ。』
その時はぼんやりとしかし確実に何かが壊れる音がした。
まどかがどこか他人に心を開けない理由。
それにはここまで深い理由があった。
だから人に寄り添うことは得意だった。
なかなかここまでの経験をしてる人間は他にいないからである。
大抵の『つらい経験』はまどかに共感できた。
ほとんどの人がまどかの心を通り抜けて行くだけの人だったので『心の傷』について話すことはなかった。
なぜだろう?
今となってはわからないが星には話してもいいかもと思ったのである。
前にも話したようにまどかには星にどこか懐かしい気持ちを抱いていた。
全てを話した。
実は…まどかは社会と繋がることはできていても心が壊れたために定期的に『心療内科』への通院を余儀なくされていた。
そこまで、全部をマルっと話した。
星はまどかの打つ文字そのものを受け止めてくれるかのように静かに聞いてくれた。
声が聞こえるわけではない。
通話するわけでもない。
でもそこにはちゃんと『音』があって
星はまどかの話す『音』を受け止めてくれた。
心の傷があることと親からの『愛情』を知らないまどかにとって『他人と信頼関係』を
築くことを苦手としていた。
こんないいことを言っていたってすぐ私の元を離れていく。
とどこか冷めた感情を持っていたのも正直なところである。
しかし、星は違った。
まどかの放った『音』にちゃんと温かみのある『音』で返してくれた。
のちにこれが『愛情』であると気づくのはもっと先のことだが。
全部を『音』に乗せて吐露したまどかは自然と泣いていた。
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