第8話

『文字』を大切にする2人が織りなす物語。


少しだけ違う人たちとのやりとりを加えながら今日もゆっくりと時間は進む。



一つしか年齢が違わないまどかと景色の綺麗なところに住む彼。



そろそろ名前を教えてほしいところではある。




彼の名前は『星(しょう)』と言うと教えてもらった。



ほしと書いて『しょう』



親がいろいろ考えてつけてくれた名前で気に入ってるんだと言っていた。



一つしか違わない2人は自然と敬語をやめてフランクに話していた。



『まどかちゃん』


『しょうくん』



と呼び合う2人は今日も楽しげに会話を紡いでいく。



ある時、昔いやそのまた昔の大昔



勝手に失恋していった『田中雄大』と言う人物がいたことに記憶をたどってほしい。


この田中雄大、今や普通に『同僚』として生きてはいるがまどかのことを諦めたわけではなかったのだ。



この頃、星とのやりとりで妙にはつらつとして見えるまどかに恋焦がれる日々を密かに送っていた。



『最近の大石さんは前より綺麗になっているんだよな』



と妙な下心なのか本心なのかよくわからない感情でまどかに接していた。



あの時、なんでちゃんと告白しなかったんだろう?



今言えば付き合ってもらえるのか?

でも彼女は最近イキイキとしている。



どうする俺。

どう動く俺。




大石さんにどうアプローチしたら振り向いてもらえる?



悩むんだ、俺。





と人知れず悩みを抱えている田中雄大を尻目にまどかは今日も仕事をこなしている。



顔も知らない

景色の綺麗なところに住んでいること

クリエイティブな仕事もしていること

くらいしかあまりしない星のことを考える日々が多くなっていた。



だからと言って星のことが全て知りたいと思っていたわけではない。



まどかが話すことに返事をしてくれるだけで嬉しかった。



同じように文字を大切にしてくれて同じような価値観で話を聞いてもらったり話を聞いたりすることにまどかは喜びを感じていた。



なぜこんなにもまどかが『文字』を好きになったのか。



小さい頃から本を読むことが好きだった。

絵本から始まり児童書などを読んだ。


絵本や児童書の中だけではまどかは自由であった。

どういう未来を描いてもいい。

どういう結末を願ってもいい。



まどかが願うことはいつもみんなの『幸せ』であった。


幼少期、どう贔屓目に見ても幸せと呼べる時期を過ごせなかったまどかはみんなの幸せを願った。



本の世界なら自由に生きてもいいのではないか。

心の傷がつくほどの人生を歩んできたまどかにとって本を読むことだけが楽しみであった。


そんなことから『文字』が身近にあったのである。



『文字の世界』なら誰も傷つかないんじゃないか!



文字の世界でも傷つけあうこともある。

しかし、現実の世界よりもまどかにとって安住の地に思えた。



いくら文字が好きでも文字で傷つかないかと言ったら嘘になる。



心無い言葉を吐く輩もいるのも事実である。


なので『勝手に』失恋を繰り返してたまどかにとって星は『勝手に』失恋していかない人としてとてもありがたい存在であった。



次第に星になんでも打ち明けるようになっていた。

仕事の詳しい話やプライベートなこと以外は。



お互いに絶妙な距離感で会話を紡いでいく。


順調に言葉を紡いでいく2人であるが、これから先も順風満帆にいくのだろうか?



まどかは今世紀最大の『勝手に』失恋をするのか?




これから先がどうなっていくのかまだ2人にもわからない。



痺れを切らした田中雄大が動くのか動かないのか?



なんとなく動き出した歯車はこのあとどんなふうに回り始めるのか…


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