第7話

まどかの居心地のいい空間はあとどのくらい続くだろう?


また勝手に失恋してしまうのではないかと不安が頭をよぎる。



景色の綺麗なところに住んでいる彼からは相変わらず連絡がきていた。



毎日の些細なやりとりがまどかの心の拠り所になっていたのである。



まどかは今日もその日あったことを報告する。


彼からも返信が来る。



それまでやりとりしていた人には申し訳ないのだが、まどかの心は毎日楽しく弾んでいた。



お互い仕事をしているのだからすぐに連絡できるわけではない。


でもお互いに時間を見つけては連絡し合う関係に穏やかな時間が流れる。



しかし、まどかはトークアプリをやめたわけではない。

彼と話してる中で普通に違う人とも話していた。

そこはそれぞれの自由である。



そんなある日、トークアプリで話していた女性からまどかは思いもよらぬ『言葉』を浴びることとなった。




まどかはその女性から、

「歳の割に幼い」


と言われたのであった。

まどかは文字を大切にすることと人に寄り添うのが得意であったため、相手の性格や年齢に合わせて話をすることを得意としていた。


なので相手に合わせているが故に『幼い』と言われてしまったのである。



傷ついたまどかは彼に連絡する。


ただならぬ緊迫感に包まれた様子が伝わったのか、彼はすぐ連絡をくれた。

彼はまどかと同じように『文字』を大切にしてくれるのである。


そして話の一部始終を聞いてから

ゆっくりと自分がどれだけ幼く取るに足らないか、人間なんてそんなにできたものではないことを説いてくれた。


まどかは初めて『理解者』に出会ったような気がしたのである。



彼がまどかに寄り添ってくれる気持ちはどこか心地いいだけではなく、優しさや穏やかさを帯びていた。



まどかはその優しさや穏やかさに安堵した。




文字を大切にしてくれる彼に次第に惹かれていくのである。

この気持ちに気づくのはもう少し先になりそうではあるが。




やりとりをする間に気持ちのやりとりもしている2人は文字と言うツールを使い、『思い』と言うものもやりとりしているのである。




そんなことがあったあと、まどかはふと景色の綺麗なところってどこだろう?



彼が見ている景色は何色をしているのだろう?



と思うのである。




同じ頃、景色の綺麗なところから電波に乗せてやりとりをしている彼は仕事の傍ら



やりとりをしている彼女は『どんな職業に就いているのだろうか?こんなに綺麗に文字で表現するのだから』



とまだ見ぬ日本のどこかに住んでいるとしかわからない彼女に想いを馳せるのであった。



そして、時を同じくして『いつか、願いが叶うのなら逢ってみたい』



と思うようになるのである。




『いつか彼が見ている景色をこの目で見たい』



『いつか彼女が慌ただしく過ごしている日々を知りたい』




同じようで少しだけズレてるその願いは叶うのか?




大都会で暮らしているまどかにとって『日本のどこか』から送られてくるメッセージが楽しみでもあった。



全く違う場所に居ながら同じ時を生きる。

文通が主流であった時代に考えられたであろうか?



文字が電波に乗って日本、いや世界までも津々浦々渡り歩くなどと。




文通もまどかは好きであった。

そのまた昔、愛読していたコミック本の後ろに『ペンフレンド募集』と書いてあったりもした。


こんなに携帯が普及する前は、手紙を書くと言うことが主流であった。



まどかも携帯を手にするまでは毎日友達と交換日記をしたり『文字』と言うものをあれやこれやの手法で楽しんでいた。



そのまどかだからこそ『文字』を同じように大切にしてくれる彼に出逢えたことに感謝するようになるのである。

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