第4話

俺の名前は、田中太郎(仮名)は冗談で

田中雄大(30)である。


俺にはどうしても付き合いたい女性がいる。


同僚の大石まどかさんである。

彼女にはどこか気品があり、いつもにこやかでとても好感がもてる。


俺の下調べによると付き合ってる人はいないらしい。


プライベートな連絡先を交換するのが最近の目標である。




チャンスが到来した。


「大石さん。プライベートな連絡先交換してもらえるかな?」



これでも俺にとっては勇気を出した方である。


まどかさんと呼ぶのも烏滸がましいがここでは『まどかさん』と呼ばせてもらおう。



まどかさんとプライベートなやりとりをするようになった。



毎日、本音は楽しい。

暗かった俺の人生『薔薇色になった』と言っても過言ではない。



趣味の話

もちろん仕事の話


会話のキャッチボールをしてくれるのがとてもありがたい。


そもそも俺は『隠キャ』と呼ばれる部類のモテないくんである。


恋愛をしてこなかったとは言わない。

しかしモテる方ではない。


なのでまどかさんとのやりとりがとても心地よく楽しかった。


『まどかさんがこのまま彼女になってくれたらなあー』とぼんやり思うようになった。



まどかさんとのやりとりは続いた。

言葉のやりとり。

たまにくる愚痴や悩み相談


どれをとっても俺にとっては嬉しかった。





これはもしかして付き合えるのでは?


と俺の気持ちが『付き合える』


『付き合えない』



を行ったり来たりするのである。



「今度の日曜日、〇〇へ出かけませんか?」



勇気を振り絞った。



まどかさんから返事があった。



「〇〇って行ったことないんですよ。楽しみです。お誘いありがとうございます」



天にものぼるような高揚感があった。



これは、これはもしかしてデートなのか?



いや、デートだよな?

誰かデートだと言ってくれ!



今週末、2人で出かけることになった。

内心ドキドキしている。

服は何にしようか?

昼ごはんは何食べようか?


考える時間はまだまだある。


最高のパートナーになるために、最良の時間になるように今から考えよう。



そして、今週末となる。


プライベートで『初めて』見る彼女は美しかった。



「おはようございます、田中さん」




「おはよう、今日はありがとう」




「こちらこそです。」



簡単な挨拶を済ませて俺たちは2人きりの時間を楽しんだ。


贔屓目に言って『ものすごく』楽しかった。



可愛いこんな人が『彼女』だったら

どんなに『幸せ』だろうか?



隣でにこやかに微笑んでくれるだけで仕事が捗る。


どんなに上司に文句を言われても励まされる。

優しい言葉をかけてもらえる。



これは幸せなことなんじゃないか?




というデートが終わってからも彼女とのやりとりは続いた。


まどかさんは言葉を大切にするタイプの人であった。


細やかな気配りが文面からもはっきりとわかった。




もっと話していたい。

ずっとこの時間が続けばいいのに。





とある日。


俺はふと思った。

こんなにやりとりしているのに、まどかさんから全然好きという感情が伝わってこない。



デートもした。

毎日連絡もとっている。



なのに、『なぜだ?』


なぜもう一歩、あと一歩踏み出してこない。



もしかして、俺はまどかさんにふさわしくないのかもしれない。



告白する勇気?

そんなものは最初から持ち合わせていない。



どうせ『隠キャ』なのだ。



いつもニコニコ朗らかにしているまどかさんには釣り合わないんじゃないか。



『いや、釣り合わない』


『もう、連絡を取ることも終わりにしよう』



一回でもデートができただけでも幸せだったんじゃないか。




すっかり、まどかさん呼びにも慣れてきた今日この頃だったが、



「大石さん、もう連絡取るのはやめよう。

ごめん。」


と送った。

俺ができる精一杯だった。


いつも追いかけるだけの一方通行だった



返事はなんとくるか?



『引き止めてくれるだろうか?』




ピコン!

携帯が鳴った。




まどかさんからだった。



「わかりました。今までありがとうございました。これからも同僚としてよろしくお願いします。」



俺の恋は終わった。



内心引き止めてくれることを期待していた。

あさましき己の心は見事に砕けた。



これでよかったんだ。



もし、まどかさんが好きだったら引き止めてくれたはず。



明日から『同僚』として付き合おう。






悲しみは襲ってくるがどこか清々しい気分になっていた。



明日からは同僚…



まどかさんではなく、『大石さん』に戻っただけだ。



頑張ろう…





こうして田中雄大の1人舞台は幕を閉じるのである。



と同時に『大石まどか』という彼女の勝手に失恋の連勝記録も伸びることとなったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る