第23話 間宮輔の回想
夕方。
生徒会室の外から聞こえる声。
「峰さん、終わりそうかな?」
「あ、副会長! 全然終わらないです! やっぱり今日こそは私だけ残業です」
半泣きで余裕のない峰一縷の声。この女はいつもこの調子だ。がむしゃらに取り組
む姿勢は評価するが、その努力の成果が何も感じられない。これが土屋家の事案なら
大問題だ。やはりこの女を新太の嫁にするわけにはいかない。兵藤勝治や和田果子の
件を見るからに、この女は婚儀にすら呼んではいけない。
しかし、婚儀の参加資格は、18歳の異性ならば誰でもいい。そういうルールだ。
「残業なんてさせないから大丈夫だよ」と副会長が優しい声で応じる。
「土屋君、ちょっとだけ手伝ってあげて」
「分かりました。ほら、見せてみろ」
「うう、土屋君、ありがとう。あんたは神様か何かの類だよ」
「大げさだな」
このままだと新太のことも憎んでしまいそうだった。
だからこそ、早めに手を打とうと思い立ち、今回の旅行を利用させてもらった。
峰一縷を陥れるための旅。新太があの女を、あの女が新太を諦める旅。
近づく2人を、遠ざけるために、私の思考は凄まじいスピードで回転した。そし
て、明暗を閃いた。間宮の人間は、監視役と世話役以外にも、土屋家当主の参謀とし
て機能するように教育される。その参謀の分野も隈なく叩きこまれた。その経験が、
今になって初めて役に立った。
新太を先に風呂場へ向かわせ、自分は女子の脱衣所に忍び込む。峰一縷の着替えを
確認する。
次に私は自分の服を脱ぐ。下着も脱いで裸になる。その上から、そっくりそのま
ま、峰一縷の下着と服を着て、部屋を出る。
その次は、新太のボストンバッグに、峰一縷の着替えを入れる。
以上で、仕込みは終わり。後は、荷物チェックにどう誘導するか、考えていたが、
峰一縷の方から荷物チェックを提案し、見事に墓穴を掘ってくれた。
私の様子の変化にも気づくことができない愚かな女。やはり婚儀にすら参加する資
格がない。
多恵子のババアが死ねば、私がそのまま間宮家のトップに座す。両親はとっくの昔
に他界しているから直線的に私が上になる。あのババアが死んでも、私が生きている
限りは、許可しない。
私のことを思い出してもらう。冷水をかけられた時の下着姿。あの下着を埋めて、
私が女であるという記憶を新太に引き出させる。
陽菜乃ちゃんが峰一縷を気に入っているのは意外だった。陽菜乃ちゃんも、やり方
は違っても新太同様、不確定要素が大嫌いな人間なのに。あんな不和の塊のような女
を受け入れるとは思いもしなかった。
私の犯行は陽菜乃ちゃんの意思を尊重した柳希和により判明してしまったが、それ
でも良いと思えた。
なにより、新太が私のことを庇ってくれたから。最終的には途中から割り込んでき
た訳の分からない女ではなく、昔から相棒のように信頼した私の味方になってくれ
た。
嬉しかった。
誰の目も無い時は、2人っきりの時は、私は女を見せるようにした。
いつかは、私以上の女が、新太と結婚する。間宮家の立場上、私は新太と愛を築き
上げられない。
だからこそ、私は土屋家の未来を守る。峰一縷のような綻びを寄せないためなら、
なんだってやってみせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます