第6話 

 そうして、聖女に会うこともなく隠れ家で力を貯めて、一週間後。


 その日、マルス山は大きな嵐に見舞われた。

 自然災害ではなく、これは悪魔ディアベルとの契約で手に入れた、私の力だ。

 天気のいい日よりも、嵐の日に家を失う方がダメージが大きいのではないか、と考えたからだ。


 嵐の中、私はコウモリのような見た目をした悪魔の翼を生やして空を飛び、聖女の家に辿り着く。


 ……そして、ギョッとした。


 雨が降りしきり、暴風だって吹く中ーー、聖女がずぶ濡れになりながら、外に立っていたのだ。

 

 「ど、どうして……こんな日に……い、いやまさか……」

 こ、この10日間、ずっと外に出て待っていた、なんて言わないわよね……?


「ヴェンデッタ。集中して」


……!あ、危ない危ない。


 また、聖女の奇怪な行動に流されるところだったわ。


 聖女は、私を見上げると、小さい、嵐にかき消されそうな声で『ヴェンデッタ』と低く、一度だけ私の名前を呼んだ。


 今までのような、親しみを込めた呼び方ではないそれに、ゾッとするものを感じつつも、吹き飛ばすように私は大声で叫んだ。


 「私は、あなたにあの時の復讐をする!見なさい、これが私を裏切った報いよ!」


  家に向かって両手を見せる。

 私の手の平から、黒い稲妻が飛び出す。

 それは、聖女の頭の上を飛び越え、家へ当たると大きな爆発を起こした。

 ドンッ!と耳をつんざく爆発音と共に砂煙が起きる。

 砂煙が晴れると、家は跡形もなくなっていた。


 「…………」


聖女は無言で、私を見ている。一度も、家があった場所を振り返らない。


 「ふ、ふふ、あははは!」


私は、無理に高笑いをした。

そうでもしないと、逃げ出してしまいそうだった。


「思い知ったかしら?私の恨みを!大切なモノがなくなって辛いでしょう?でもね、私はもっと辛かったのよ!」


  ……あなたに、友達であることを否定されて。


 私は、今度こそ聖女が怒ると思った。

 けれど。


「……辛くも、なんともありませんわ」


 聖女が、私を見据えたまま静かに言った。


わたくしが辛いと思ったのは、2度だけですわ。1度目は、ヴェンデッタを喪ったと思った時。2度目は、ヴェンデッタがこの10日間、1度も会いにきて下さらなかった時」


 聖女が話しながら、右手を私にかざした。

 その手に光が宿り始める。


 結界魔法だ、まずい。


 そう思って、羽ばたいて逃げようとするも、なぜか羽が動かない。

 私の体は緩やかに落ちていって、聖女の目の前の地面に着地した。


 聖女が座り込む私と目を合わせるように屈む。


 「わたくし、考えましたの。ヴェンデッタとずっと一緒にいるには、どうすればいいか」


 う、動かない。体が、いうことを聞かない。


 「ヴェンデッタ。ヴェンデッタは、復讐をしにきているんでしょう?」


 聖女の手の輝きが増していき、私達の四方八方を覆いつくすように、結界がはられていく。


 いつもと、何か違う。

 見た目も、いつもは、半透明な金色をしているのに、まるで石造りの壁のようだ。


「今までの結界魔法とは違いますわ。あなたと別れた後出来るようになった、わたくしだけの結界魔法。今までのように、気を失っても解除されることはありませんの」


 ようやく体が動くようになる。でも、もう遅かった。


「この結界の中では、わたくしの思い通りの理が適用されます。今回のそれは、『ヴェンデッタがわたくしに復讐をすること』。そのためには、食事も、排泄も、睡眠も邪魔なものは何一つ必要ありません。

ここは、ヴェンデッタがわたくしに復讐をするためだけの結界ですわ。思う存分、私を痛ぶって下さいまし」


 心底、嬉しそうに笑って聖女は続けた。


「死がわたくし達を分つまで。ヴェンデッタはわたくしに復讐し続けるのですわ」

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【GL】勇者パーティに裏切られた私、悪魔の力を借りて復讐するはずが、復讐相手が溺愛してきます @fujinobu

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