第4話

「覚悟しておきなさい、聖女。次こそは必ず、あなたに恐怖を与えてみせるわ」


ーーそう、かっこよく宣言してみせた私だったが……


 まさか、こんな態度を取られるとは予想外だったわね……。

 聖女のせいで、なにもかもが狂ってしまった。


 聖女の家を再び訪ねると、なんと、家の外に机と椅子が置かれていて、聖女が外で私を待ち構えていた。


 「ヴェンデッタ!また来てくださったのね」


罠が仕掛けられているかも、と少なからず緊張している私に、聖女はにっこりと笑う。

 そして、『少しお待ちを』と家に入ると、皿一杯に盛られたクッキーを手に戻ってきた。


 「ヴェンデッタ、わたくしのクッキー好きだったでしょう?たくさん焼いておきましたわ。紅茶もいかが?ヴェンデッタはたっぷり砂糖を入れるのが好きでしたわね。勿論、砂糖も用意してありますわ」


「…………」


な、なんなんだ、これは一体……。

昔の、友達だと思っていた頃と、全く同じ……いや、それ以上に親しげな態度の聖女に、毒気を抜かれそうに……、


「……ヴェンデッタ」


耳元で、ディアベルが私の名前を呼ぶ。

……分かってるわよ。


 「いらないわよ、こんなの!」


 私は、机の上のクッキーが入った皿をひっくり返す。

怒るでもなく、捨てられた子犬みたいな顔をする聖女。


 た、確かに聖女を嫌な気持ちにはさせられたけど……

違う、私のしたい復讐はこんなのじゃない!


 例えば、


 『ヴェンデッタ如きに、このわたくしが……!』と、傲慢な態度を取る聖女を、あの時のことを後悔するまで、悪魔の力で蹂躙し、痛ぶる……みたいな!

 そういうことをやりたかったのだ。


 それなのに、なんなんだ、これは。

そんなに悲しそうな顔をして、『……ごめんなさい、ヴェンデッタ』と、謝るのを止めろ。

 友達じゃないと、先に否定したのはそっちじゃないか。


『ヴェンデッタのくせに、わたくしのクッキーを……!』と、激昂して私に攻撃をしかけて、私がそれを返り討ちにするとか、そうなるべきでしょう……!?


 ああ、もうイライラする。こんなんじゃ、私が一方的に悪いみたいじゃない!


 「きょ、今日はもう帰るわ!」


 そう捨て台詞を吐いて、また聖女の体を貫いて、隠れ家へと帰った。

 今度はこの間より深めにしたから、すぐに気絶し、抵抗されずにすんだ。




 隠れ家にて、ディアベルが、


 「あなたには呆れましたよ、ヴェンデッタさん。次こそは必ず〜なんて啖呵を切っていながら、この間と全く同じじゃないですか」


「……うるさい」


「なによりも、まさか、クッキーを持って帰るとは思いもしませんでしたね」


「…………べ、別に……まともな嗜好品なんて普段あまり手に入らないから……それで持って帰っただけだから……」


 そう、ただのそれだけだ。

 それに、糖分で頭が回転すれば、いい復讐を思いつくかも知れない。

 決して、聖女が可哀想だと思ったとか、そんなのじゃない。

 そんなのじゃ、ないのだ。

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