第13話

翌日。


デートはとうぜんめちゃくちゃな結果で終わったらしい。


そのことでホクホク顔のリーゼロッテだった。


デートしなくてうれしい!的な反応だ。


だがアドニスはそうもいかなかった。


「昨日から姉さんが帰ってこないんだよな」


ポツリとそう漏らした。


シエルもリーゼロッテも怪訝な目をしていたが俺は聞いてみることにした。


「家出?」

「いや、姉さんは真面目な人だ。そんなことはないはず」


そのときアドニスは懐から手紙を取り出した。


「そういえば今日自宅にこんなものが届いていたな。時間がなくて読んでなかったんだけど」


もちろん今日俺がアドニスのところに送り付けた手紙である。


「開けてみたら?」


中身を見たアドニス。


「姉さんが誘拐された?」


俺に目を向けてくる。


「姉さんを助けなくちゃ……手伝ってくれないか?」

「もちろん。手伝うよ。ちなみに向こうからは要求はないのか?」


ゴクリ。


唾を飲み込んでアドニスは答えた。


「それが、僕が持っている勇者の剣が欲しいみたいだ」



放課後俺たちは作戦会議をしていた。


「向こうは僕ひとりで荒野の砂漠ってところに来て欲しいみたいだ。でもひとりで行くのは危険だ」

「そこで俺に来て欲しいってわけだね」


アドニスはそれからシエルに目を向けた。


しかし、シエルは目を細めていた


「はっ。自分のやってきたことが帰ってきただけだろ、ゲス」

「姉さんは関係ない」

「だいたいその手紙自体がお前の罠じゃないとどうやって証明するんだ?私たちをおびき出してまた売るつもりだろう?」


経験者は語るってやつだろうか。


正直いうとこれからのことにシエルは必要ない。

というより邪魔だ。


「俺は行くよアドニス。ふたりで行こう」


パァァァァァっと顔を明るくさせるアドニス。


「アノン。やっぱり君は良い奴だな。親友だ、君は」


「私も行きます」


リーゼロッテが言った。


「なら欠席はシエルくんだけってことでいいかな?」


ニヤニヤしていたアドニス。


「ゲスが……私も行こう」


(ひとつ、言っていいかな)


すぅ、はぁ……。



このパーティめっちゃギスギスしてて草。


でも、勇者パーティってのはこうじゃないとな。


困難や仲間の裏切り、トラブルなんかを乗り越えてやっと一流の勇者になれるんだよ。


じゃなきゃ、魔王は倒せないよ。


ふふふ、ははははは。


俺が一流の勇者へと導いてあげるよ。アドニスくん。


誰でも簡単な勇者レッスンってやつだ。


放課後。

さっそく俺たちは砂漠を目指すことにした。


その時だった。


ザッ。ザッ。


俺たちの視線の先にひとりの男、ヤッキが現れた。


そして、土下座した。


「すまねぇ、アドニス。お前の姉さんが消えたのは俺たちのせいなんだ」


ピクリ。


俺は眉をひそめた。


こんなもの台本に書いてないからだ。


現状では、こいつらはまだ続投するつもりだったんだが……。


(消すか……?シナリオから。それともお仕置か……)


【見えざる手】


「ぐっ……」


ヤッキの体が浮いた。


『それ以上言えば、分かっているよな?いつでも見ていると言ったぞ』


手を離すと怯えたような目をするヤッキ。


「あのお方が……いや。こんなところでビビってちゃいけねぇ」


決意を固めたような顔をするヤッキ。


「これからマリアを探しに行くんだろ?俺を仲間に入れてくれアドニス。もちろん、子分もつれて行く」


不敵な笑みを浮かべるヤッキ。


果たしてアドニスは……


「心を入れ替えたようだね。一緒に行こう。よろしく頼むよ」


といったふうに、かつて敵対していた奴と一時共闘をすることになるという王道展開となっていた。


(まぁ、脚本にはないが、これでもいいだろう。だって、王道だからね)


俺は王道が好きだよ。


(あまりにも調子に乗って俺の脚本をぶっ壊すようなら即刻排除するけど)


とりあえずの方針はそれでいい。

今はこの王道の熱い展開を楽しもうと思う。


俺たちは死の荒野に向かって歩き出した。


死の荒野は街の辺境にある場所だ。


かつて、栄えていた街ではあるのだが、昔事故があったらしく焼け野原に変わったらしい。


そしてそのまま復興もされず、捨てられた大地となったような場所。


そこまで歩いてきていた。


目的地まで目指そうとしているところ


「はぁっ!」


「くらいやがれぇっ!」


蜘蛛の巣のヤツらが出てきた。


「ふん!」


「せいっ!」


アドニスと俺で蹴散らす。


リーゼロッテが口を開いた。


「さすがアノンくん。なんてお強いのでしょうか」


アドニスがすごい顔で見てきていた。


「アノン、君とリーゼロッテはなんの関係もないんじゃなかったのかい?」


ザッザッ。


もはや敵意を隠すつもりもないらしい。


「やだなぁ。アドニス。俺とリーゼロッテはまだなんの関係もないよ」


「そうですわ。アドニスくん。私とアノンくんはまだなんの関係もありません」


「とても、そうには見えないけどね。君たちの関係は」


ちっ。


舌打ちしていたアドニス。


ボロが出てきたようだ。


アドニスはそこで襲ってきた奴らに目を向けた。


「これは……犯罪組織【蜘蛛の巣】のメンバーじゃないか」


ワナワナと震えるアドニス。


自分の配下に襲われたのだ。


気が気でいられないのだろう。


「味方に殴られるなんてざまぁないな」


シエルが鼻で笑っていた。


「キミたちと喧嘩している場合じゃないようだ」


ギリッ。


アドニスは歯を食いしばった。


これから起こることへの憤りだろうか。


「蜘蛛の巣は僕に黙って儀式を行うんだと思う」

「なんの、儀式だよ」


ヤッキがそう言ったときだった。


グラグラグラグラグラ。


「じ、地震っ?!」


俺はリーゼロッテとシエルを両手で抱えてその場を離れた。


その瞬間だった。


「ゴアァァァァァァァァァァァァア!!!!!!」


ボゴッ!


地面からしっぽが出てきた。


ブン!


しっぽが振り回されてヤッキの子分たちがメキョッと潰れた。


「ひ、ひぃぃぃぃ!!なんだよこれぇ!」


ヤッキはなんとか助かったようだったが。


「なんてことだ……」


ドサッ。


アドニスは崩れ落ちた。


「復活してしまったぞ、邪神竜が」


ヤッキがアドニスの胸ぐらを掴んだ。


「んだよ、邪神竜って!答えろアドニス」


「かつて、この世界を支配したとても強い竜さ。何人もの魔法使いが命をかけて封印したような、ね」


ドサッ。


四つん這いになったアドニス。


「終わりだ。蜘蛛の巣のやつら何を考えてる。邪神竜の復活など。この世界を終わらせるつもりなのか?」


ひとつ言い間違いがあるな。


この邪神竜、復活させたのは俺だ。


むしろ蜘蛛の巣のやつらは必死に止めてきたが、俺が強行して復活させたのだ。


(さてと)


俺は蜘蛛の巣のとある奴に連絡をすることにした。


『出番だ。こい。へーロ、サーガ』


俺がそう合図した瞬間だった。


物陰からヌッと姿を現したふたりの大男たち。


アドニスの顔に絶望が浮かんだ。


そして小さく呟いた。


「俺たちの行動が筒抜け?まさか裏切り者が?」


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