第12話

学校にやってきていつものようにモブAとしての日常を送っていたときだった。


驚くべきことが起きた。


「おはよう、リーゼロッテ」


聞きなれない声。


そう思って俺は声の方を見た。


(あっ、昨日の銀髪だ、名前はシエルだっけ?)


俺に目を向けてくる銀髪ちゃん。


「あれ?どこかで……?」


(やけにかんが鋭いなこいつ)


「どこでも会ったことないと思うけど?」

「えぇ、でも。あなたの匂いどっかで嗅いだ覚えが……」


(犬かよ)


昨日は雨を降らさなかったことが仇となったな。


雨降らし演出って意外と意味があったんだなぁ。


まぁでも、銀髪ちゃんは特に気にしなかったようだ。


「それより聞いてよリーゼロッテ。確定だよアドニスは悪いやつだ」

「やっぱりですか」

「なはは。捕まっちゃっててさ」

「よく生きて出てこれましたね」

「それがね。あのお方って人に助けて貰って」


銀髪ちゃんがそう言ったときだった。


「あのお方さんに会ったんですか?!」


少し興奮しているようなリーゼロッテ。


「うん。蜘蛛の巣のヤツらボコボコにしてたよ」


「まぁ、なんと。やっぱりあのお方さんは正義の味方なんですね」


俺の話で盛り上がってるふたり。


俺は陰キャらしく机に突っ伏して寝てる振りでもする事にした。


もちろん、聞き耳は立てるけどね!


腕と腕の隙間からちらちら教室の中を見ていた時のことだ。


ガラッ。


話題のアドニスが入ってきた。


アドニスは大人気の生徒だ。


教室にはいるだけで歓声があがる。


陰キャと陽キャの差をひしひしと感じる。


シエルと目があったようだ。


アドニスが歩いてやってきた。


「アドニス、お前の正体は分かったぞ」


シエルがそう言ったがアドニスは聞く耳を持たない。


「なんの話かな?へんな誤解が生まれても困るからそういうこと言うのやめて貰えるかな?」


俺はこの時のために持ってきた【世界のハーブ図鑑】を広げて読むことにした。


『裏切り者はお前だったのか』に向けての伏線である。


そうしているとアドニスが声をかけてきた。


「やぁ、アノン」


「おはよう、アドニス。昨日はよく眠れて今日は機嫌がいいんだ」


「そうなんだ、よかったね」


普通の世間話だと向こうは思っているだろうが、俺にとっては伏線を散りばめまくっている会話だ。


アドニスはリーゼロッテに目をやる。


「リーゼロッテ、今日の放課後はよろしく頼むよ」


「……はい」


やはり気が進まないようである。


俺が正義のヒーローなら止めるんだけど、俺は正義のヒーローではないからね。


仕方ないよ。


アドニスは席に戻っていった。




放課後になった。


アドニスとリーゼロッテは先に教室を出ていった。




シエルが俺に話しかけてきた。


「アノン。これから予定は?」

「帰るけど」

「お願いだ。私といっしょにリーゼロッテを見守ってくれないか?アドニスは悪いやつだ。このまま放っておけばリーゼロッテが危険」


両肩に手を置いてガクガク揺すってくる。


だが俺にはやることがある。


「すまない。今日は外せない用事があってね」


俺はそう言ってシエルとは別れることにした。


リーゼロッテに仮に何かあったとしてもシエルが対応してくれるだろう。


俺は教室を出ると屋上に向かった。


そこにはやはりヤッキがいた。


「今日はどうしましたか?」

「アドニスの姉について話が聞きたいんだが。クラスは分かるか?」

「あー。姉貴というとマリアですか。それなら2年の教室にいると思いますよ」

「そうか、助かる」


俺はヤッキから聞かされた教室に向かうことにした。


教室に入ると黒髪の女が見つかった。


(あれがアドニスの姉のマリアか)


俺は確認すると、マリアに近付いて声をかけた。


「どうも」

「キミは?」


不思議そうな目で俺を見てくる。


「アドニスの友達ですよ。この前アドニスに飲ませてもらったハーブの飲み物がすごくおいしくて、作ってるのがお姉さんと聞きましてね。作り方を教えて欲しいと思ったんですよ」


「なるほど。そういうことなら教えるよ」


にこっと笑ったマリア。


俺は彼女と共に自分の家へと向かうことにした。


「あのハーブの種はこれだね」


そう言ってハーブの植え方なんかもこと細かく教えてくれる。


「おぉ、なるほどぉ」


俺は種を植えると【加速魔法】を使って急速にそだてた。


ハーブが出来上がった。


「加速魔法?」


俺はニコッと笑って答えた。


「いえす。飲んでみませんか?」


ちなみにこのハーブ自体にはなんの効果もない。


睡眠薬は別入りのようである。


俺は家の離れにマリアを案内してそこでお茶を入れた。


そして、昨日蜘蛛の巣からパクってきた薬をひとつ入れる。


「お待たせマリアさん」

「おいしそ〜」


ズズっ。


ハーブティを飲んでいく彼女。


だが、やがてウトウトし始めた。


「あれ……?」


「おやすみなさい。マリア姉さん。次に会う時はきっといいところですよ」


俺は蜘蛛の巣メンバーに連絡をとった。


『進捗はどうだ?』


「襲いましたが大した戦果は」


『まぁいい。こちらの準備は終わったからな。十分だ』


俺の目的であるマリアの入手はできた。


彼女がいればアドニスの行動なんて簡単に制御可能だ。







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