第10話

俺は瞬間移動を使いヤッキと共にアドニスの家の前に来ていた。


もちろんアドニスより早い。


なんせ瞬間移動だからね。


「ほ、本当にやるんですか?」

「無論だ」

「どうなっても知りませんからね!」


ヤッキが俺の腕を掴んできた。


そして、計画通りのことが始まる。


「へへへ、姉ちゃん俺といいことしようぜ」

「やめてぇぇぇぇ」


変声魔法を使って声の高さを変えているため他の人間には女の声として聞こえるだろう。


俺がヤッキにナンパされていたその時だった。


「むっ」


声。


声の聞こえた方に目をやるとアドニス。


アドニスは顔をしかめて俺たちの方に近寄ってきた。


「やめないか、彼女嫌がってるだろ?」


俺の事を完全に女と思っているらしい。


「ちっ!覚えてやがれ!」


三下みたいなセリフを吐いてヤッキは離れていった。


残されたのは俺(女装)とアドニス。


アドニスに話しかけられた。


「怖かったよね?」


「はいぃ。怖かったですぅ」


俺の前世はオタクである。


男がキュンキュンくる女を演じるくらい簡単だ。


ほら見ろよ


「キュンキュン」


アドニスはキュンキュン言って目をハートにしてるぜ。


ちょろいもんだな。


「家がすぐ近くなんだ。少し休憩していかないか?」

「はい。お願いしますぅ」



アドニスの家に案内された。


家の中は俺の家とさほど変わらない。


「名前を聞いていなかったね?」


そう聞かれて俺は適当に考えた名前を名乗ることにした。


「ノア・フォン・オカーターと申します」


ちなみにだがオカーター家は実際にある名前だ。


「ノアちゃんだね。見たところ貴族のようだね」


「はい、貴族ですぅ」


ニヤッ。


小さく口元が歪んだのを俺は見逃さなかった。


「ウチの姉が育てたハーブで作ったお茶がすごく美味しんだ?飲んでみないかい?」


(姉がいるのか、この情報使えるかもな)


「ぜひぃ!」


アドニスは立ち上がり部屋を出ていった。


しばらく待っているとアドニスが返ってきた。


手にはカップだ。


ことっ。


俺の前に置いてくれた。


「どうぞ、すごくおいしいんだ」


(ステータスオープン、なるほど。睡眠薬入りか。かなり強力だな)


まぁ、俺には効かないけど。


そう思いながら俺は中身の成分を確認してからカップのお茶を飲んだ。


ごくごくごくごく。


全部飲んだ。


マァマァの味だった。


飲んでからしばらく、俺はウトウトとし始めた演技をする。


「眠いかい?」

「はい。なんだか」


俺は背もたれに背を預けた。


ぽふっ。

柔らかいソファ。


俺はゆっくりと目を閉じた。


そのとき、アドニスの声が聞こえた。


「たくさん、かわいがってもらいなよ、ノアちゃん。これからキミは奴隷だ」



しばらくすると俺はロープで体をグルグル巻にされた。


それから馬車に運び込まれた。


そして、どんどん人気のない方向に運ばれていた。


そのまま俺はスラム街の方の廃墟に連れ込まれていた。


「よいっしょ」


男が俺を背中に担いだ。


「さてと、そろそろいいかな」


【ウィンドカッター】


ブチィッ!


俺はロープを全て切った。


それから男の顔に膝蹴りを叩き込んだ。


「ぬはっ……」


グラッ。


ドサッ。


倒れ込んだ男。


死んだかもしれないけどまぁいいだろう。


どうせこいつは下っ端だろうし。


「スカートってのはスースーして、嫌だよな」


変装を解いて俺は仮面を付けた。


今いるのは廃墟に入ってスグのところだ。


まず何をするかを考えた。


(誰でもいい。人を探してみるか)


敵でも味方でもどっちでもいい。

とりあえず話を聞いてみよう。


周囲を見てみるとすぐに扉が見えた。


扉があったらとりあえず開けてみる。


ギィッ。


「ふむ。地下に続く階段か」


俺は人差し指の先端から魔力でできた糸を出してきて、それを階段の方に伸ばしていく。


【マッピング】


「今のところエネミー反応はなし、生体反応はいくつか。この先は四角形の部屋があるのか」


よし、とりあえず降りてみよう。


階段を降りていく。


下まで降りると事前の調査通り部屋があった。


部屋の壁に沿って小さな鉄格子の檻。


中に入っているのは女の子。


俺を見て声を出してくる。


「ここから出して!」

「お願い、助けて」


とりあえず俺はひとりの女が入った檻に近付いた。


銀髪の髪の毛。

上品な衣服を身につけていることはすぐに分かった。


「出して。悪い奴に連れられてきた」


「知ってるよ。だが条件がある。ここのボスの居場所が分かるなら吐いてくれ」


俺がそう言ったときだった。


建物入口の方から扉が開く音が聞こえた。


俺は常に【音量増幅】魔法を発動している。


よって、ちょっと離れた場所の音でも問題なく拾うことができる。


「はぁ、はぁ」


呼吸音と共に誰かが階段を降りてくるのも分かるわけだ。


そして、


ダッ!


「ふっ!すきあり」


ザシュッ!


ナイフを突き出してきたけど。


「遅い」


ガッ。


俺は背後から飛びかかってきた男の顔を掴んだ。


男は驚いていた。


「な、なぜ奇襲が分かった……」


ブルブル。


恐怖で震えているのが分かる。


顔からは大量の汗。


「全ては……」


俺はニヤリと笑ってお決まりのセリフを口にした。


「我が手中にあり」


お前の奇襲もすべて知っている。


予定通りである。

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