第9話

翌日。


学園に登校すると朝からアドニスが詰め寄ってきた。


「アノン、聞きたいことがある」

「なに?」


昨日のことだろうか?


そう思っていたらやっぱりそうだったらしい。


「リーゼロッテ令嬢とはどういう関係なんだい?昨日はすごく楽しそうにしていたけど」


「なんでもないよ。付きまとわれただけさ」


そう言うとアドニスはホッとしていたようだった。


「話しておこうと思うんだアノン。僕は彼女のことが好きなんだ」


「そうなんだ。その恋応援するよ」


ただ、問題がある。


リーゼロッテ側の脈がないことだ。


昨日の反応は覚えてる。


『アドニスはちょっと』


みたいなセリフ。

だが、俺は黒幕のキューピット。


ここは任せてもらおうっ!


無事に2人を引っ付かせてみようと思う。


(そんでもって二度と関わんな)


と、愚痴ってたときだった。


ガラッ。

教室の扉が開く。


リーゼロッテが投稿してきた。

俺たちに近寄ってきた。


さっそくアドニスが話しかける。


「リーゼロッテ、ちょうどよかった。」


「どうしました?」


「単刀直入に言おうと思う。明日、僕とデートして欲しいと思う」


「……」


「明日の放課後グラウンドで待っていてくれないか?迎えに行くよ」


アドニスは自分の席に戻っていった。


俺はリーゼロッテの方に手を置いた。


「大丈夫だよ。彼は良い奴だ。俺がいじめられてる時も助けてくれたからね」


そう言ってみたがリーゼロッテはシリアス顔で言ってきた。


「これは浮気ではありませんアノンくん。私はあなたのことが好きです。心はここに置いていきます」


誰も見てない瞬間にキスしてきたリーゼロッテ。


そのままリーゼロッテは席についた。


(なんか、訳ありって感じか)


やっとマトモな勇者を見つけたと思ったらこれか。


はぁ、少し情報でも集めてみようか。



昼休み。


屋上にやってきた。


もちろん仮面をつけて、だ。


ザッ。


ビシッ!


俺が入った瞬間子分共が敬礼を始める。


「あのお方が来られたぞ!」

「名前を知ることもできないあのお方だ!」

「敬礼っ!」


俺はヤッキの前まで歩くとドサッと座った。


「今日はなんの用ですか?」


ビクビクしている。


よっぽどトラウマになっているようだ。


「アドニスというやつについて、何か知っていないか?」

「あー、あの訳ありですか」


やっぱり訳ありだったか。


そう思ってるとヤッキが続けた。


「これは噂なんですがね……奴は奴隷売買組織に通じてるって話なんですよ」


奴隷には種類がある。


販売が許可された者とされてない者。


極端な話をすると貴族や王族といった高貴なる者は取引されない。


「アドニスの婚約者が奴の家に行ったきり行方不明なんて話はけっこうあるんすよ。噂ですがね」


その話で思い出したことがある。

俺は貴族だから少々裏社会にも詳しい。


(犯罪組織【蜘蛛の巣】ってのがアドニスの家とは関係あったな。そこに繋がりがあるってとこかな)


「ヤッキ。今日の放課後の予定は開けとけ」


「どうしてですか?」


「お前を使うからだ」


ニヤッと笑って答えた。


教室に戻ると俺はリーゼロッテに話しかけた。


「リーゼロッテ、これを送るよ」


「え?これって」


「おもちゃの指輪。がんばって時間をかけてリーゼロッテに似合うようなものを見繕ってきたんだ(大嘘)」


「いいのですか?」


「うん、俺のことが好きなら肌身離さず持っていて欲しい。それからさ」


俺は自分の適当な指に指輪をつけてもう片方の手で包んで祈るようなポーズをした。


「俺に会いたいと思ったらこうやってさ、神に祈るみたいにやってみてよ。どんなに距離があっても駆けつけるから」


「アノンくん。うれしいな」


今近くにアドニスはいない。


発狂する心配はないので、こんな反吐が出るくらい甘ったるい会話をしていた。


放課後、俺はもう一度屋上へ向かった。


待っているのはヤッキひとり。

俺の指示通りだった。


俺はヤッキにさっそく聞くことにした。


「アドニスの行方は?」


「子分に追わせてますが家の方に向かっているらしいです」


それからヤッキは俺の全身を見てきて苦虫を噛み潰したような顔をした。


「ところで、なんで女装なんてしてらっしゃるんでしょうか?」


「必要だからだ」


「そうなのですかい?ところで何がしたいんですか?」


「犯罪組織の入手だ」


「入手って……情報が欲しいとかっすよね?どうするんですか?」


俺はヤッキの顔を見た。


「俺がこの不良グループを入手したようにだ。もちろん武力行使」


俺は決めゼリフを吐くことにした。


「全ては」


グッ。


俺は手を握りしめて続けた。


「我が手中にあり。ここは地獄。あり一匹逃れられん」



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