第7話

俺は入学式初日だと言うのに不良に絡まれていた。


校舎裏に連れていかれてボコボコに殴られていた。


「お前侯爵家の人間なんだってな?」

「金くれよ金。友達になろうぜー」


不良が俺の髪の毛を掴んで自分の顔を見させてくる。


その時だった。


「なにをしている!」


凛とすんだ声。


「やべっ」

「逃げろ!」


不良たちが逃げていった。


「大丈夫か?」


声の主が俺に向かって走ってきた。


【アドニス・フォン・レイゼンブルド】


勇者として選ばれた正統派イケメンだ。


「うん」


パンパン制服のホコリを叩きながら立ち上がった。


「ありがとう、アドニスくん」


俺は至って健全なモブキャラのような笑顔を浮かべた。


「くんはいいよ。クラスメイトだろ?アノン」


「そっか。ありがとう、アドニス」


これが俺と勇者アドニスの出会いだった。


まぁ、よくあるような、いじめられっ子と主人公の出会い現場である。


な?

俺の初見の印象は間違ってなかった。


こんないじめられっ子にすら優しくするような、正統派の主人公だぜ。



初日の放課後、俺はアドニスと共に食堂に来ていた。


俺とアドニスは向かい合って座っていたのだが、


「アノン。許せなくないかい?」

「なにが?」


ズコーっ。


俺はコーラを飲みながら返答した。


「君をいじめていた不良たちだよ。あんなこと許されてはいけない」


(あーね、)


別に痛くも痒くもないからどうでもいいんだよな。

あんないじめ。


なんなら向こうから「自分ら悪役っす!うっす!悪の組織っす!」みたいな感じで寄ってきてくれたのだから俺としてはありがたいくらいだ。


この世界悪役不足だからな。


なのだが……


ダン!


机を叩くアドニス。


「君の意見を聞きたいと思う」


「あ、はは……いいよ。仕返しとか怖いし」


俺は主人公パーティの中にひとりはいる気弱そうな男を演じる。


「あんまり余計なことして欲しくないんだよね」

「いや、許しては行けない。あんなのはいけないことだ。くっ。僕には分かるぞ。君の苦しい心が」


(あんたといる方が心が苦しいよ)


そう思った俺は立ち上がった。


「アドニス。とにかくいいよ」

「だけど」


俺は妥協案としてひとつ提案することにした。


「アドニス。明日まで様子を見てくれないかい?彼らの虫の居所が悪かっただけかもしれないしね。一時のことで彼らを悪と決めつけるのは早いよ。ははは」


そう言って俺は強引に会話を切った。


俺はそれ以上アドニスに呼び止められないように早足で食堂を出る。


そして、屋上へと向かった。


(こんなこともあろうかと常に仮面は忍ばせておいて良かったな)


俺は屋上に続く扉を開けた。


「あ゛?」


「ん゛?」


いっせいに視線が飛んでくる。


屋上にはたくさんのヤンキーたち。


「おい、一年……」


【見えざる手】


ガッ!


俺は魔法の手でヤンキー共を全員の首を掴んで宙吊りにした。


「ぐぎっ……」


「げぇっ……」


ひとりだけは残してある。


リーダー格の男だ。


「てめぇ、子分共になにしやがった?」


【見えざる手】


「っ?!!!」


宙吊り。


他の子分の何人かは既に目が白くなってきている者もいる。


「口の利き方には気をつけなよ?低脳。俺の呼び方は『てめぇ』じゃない」


「げぇっ……ぐぎぃっ……」


「俺の名はアノ・オカタだ。口には気をつけた方がいいよ。忘れられないように脳裏に掘ってあげようか?俺の名前を」


ドサッ。


こいつらの首から手を離した。


「ひ、ひぃぃ……むぐっ」

「うわぁぁぁぁ、むぐっ」


逃げようとしていた奴らの口を塞ぎ体を拘束した。


俺はリーダー格のやつに話しかけた。


「逃げるなよ。逃げた瞬間この世界から消す」


コクコクコクコクコクコク。


高速で首を縦に振る。


「とりあえず名前くらいは聞いてやろうか」


「ヤッキです」


俺に土下座してきた。


俺はヤッキの頭を踏みつけて床にグリグリ押し付けてやった。


「クズどもが。先に少しばかりシツケをしておいてやろう。俺には二度と逆らえないようにしてやろう。ゴミ共が」


ゲシゲシと蹴ってから顔を挙げさせた。


「お前らは今日から俺の駒だ。命令にないことはするな。そして、とりあえず悪いこともやめろ。俺が困るんだよ」


コクコクコクコクコクコク。


何度も頷いていた。


「それならいい。」


俺は最後にヤッキの体を軽く小突いた。


「ごばっ!」


屋上のフェンスまで吹っ飛んで行った。


「くくくく、はははは」


俺は笑いながら屋上を出ていくことにした。


人目につかない場所で変身セットを外して帰ることにした。


そして校門のところまで歩いた。


この時間は下校時間なのでみんな帰ろうとしていたのだが……。


「あっ」


俺と目が合うひとりの少女が見えた。


「リーゼロッテか」


てっきり先に帰っていたものだと思っていたのだが。


「もしかして待ってた?」

「はい。待っていましたよアノンくん」


理由は分からないがどうやら俺の事を待っていたらしい。


「ヴァカムスのこと?」

「いえ、違います。単純にあなたのことを待っていたのです」


「なんで?」


聞いてみると驚きの声が帰ってきた。


「いっしょに帰りたいなぁと思いまして」


なんで俺と?


この前ヴァカムスの家で少しあっただけの関係なのに。


俺としてはこの子に1ミリも興味ないんだけどな。


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