第6話 

俺は小さく笑って答えた。


「目的?別にないよ」


ははははは、笑った。


「ふざけんじゃねぇぞ!アノン!目的がねぇのになんで勇者の剣を持ち出させた?!」


俺は冷めきった目をヴァカムスに向けた。


「必死だね」


「そりゃ、必死にもなるだろう?!今あきらかに危険なんだからな俺たち」


リダとヴァカムスが俺を睨んでくる。


今まで敵対関係にあったふたりが力を合わせて俺を見てくる。


あぁ。


こんなにも……


そそられる展開はかつてあっただろうか?


いや、なかったはずだ。


そんな展開を作り出してくれた2人には感謝して、お礼に教えてあげることにしよう。


「答えておくよ。そう、俺が『あのお方』」


俺は懐から皮袋を取り出すとリダに投げつけた。


「受け取りなよ、約束の金だ。まぁ、使うのはあの世で、ってことになるだろうけどね」


「あの世だと?」


俺はヴァカムスに目を向けた。


「俺がどこまで計算してやっていたか分かるかい?ヴァカムス」


「計算、だと?まさか……」


「とうぜん、バレるところまで計算してやってたさ。そのためにいろいろと、ヒントをばら蒔いてやったしな」


俺は左手を突き出した。


手のひらを上に向けて開いていた。


あー、そうそう。俺は『あの方』らしく決めゼリフのひとつでも用意してたんだ。


せっかくだから吐いてみようか。


「この世界の全ては……」


溜めてから、吐き出す。


「​───────​我が手中にあり。我が手中からはアリの一匹すら逃れることは叶わん」


グッ。


開いていた手のひらを閉じた。


「俺はお前の手のひらの上で泳いでたってのかよ?!」


「そうだ。ヴァカムス。貴様は俺の道具に過ぎない。そして、道具とこれ以上会話を続ける趣味は俺には無い」




【ファイア】

【ファイア】

【ファイア】

【ファイア】

【ファイア】

【ファイア】

【ファイア】

【ファイア】

【ファイア】

【ファイア】

【ファイア】

【ファイア】



ボウッ!


廃墟が燃え盛る!


まるで本能寺みたいに!


「アノン!この雨の中だ!火はすぐに収まるぞ」


ヴァカムスはそう言ったが、リダはちゃんと覚えていた。


「おい、忘れたのか?『あのお方』は天候操作ができる。こんなどしゃ降りの雨でもすぐにやむんだ」


【天候操作・快晴】


ピタリと雨は降りやんだ。


その様子は窓から見える。


空には夜空いっぱいの星が輝いている。

雨なんていっさい降っていない快晴。


グラッ。


木造の建築物なせいで、天井が焼け落ちる。


焼け落ちた天井からはキレイな夜空が見える。


無数に輝く星たち。


「お、おい、星がひとつ消えたぞ?」

「待て、1つじゃねぇ。どんどん、消えていく」

「いったい、どこに消えてる?」


ヴァカムスは俺の手のひらを見てきた。


俺は今両手を前に突き出している。


その間には無数の球体が浮いている。


「またひとつ星が消えた。そして、アノンの手元にひとつ増えた……まさか」


ヴァカムスは星の行き先に気付いたようだ。


俺はニヤリと笑って呟いた。


「天体すら手中に収めてみよう」


グググッ。


手のひらの間で浮いている星々を無理やり衝突させるように動かしていく。


「な、なにをしようとしてるんだ?!ヤベぇことになりそうだ!」


ヴァカムスの質問。


そのとき、全ての星々が衝突した。


グチャッ!


「【グレート・アトラクター】」


星と星の衝突によって生まれた衝撃波で全てが消えていく。


ヴァカムスなど言うまでもなく一瞬にして塵となった。


数秒後、廃墟を中心として10メートルほどのクレーターができた。


あの衝撃で生き残ったのは俺が生き残る許可をしたものだけである。


今回許可したのは勇者の剣のみ。(ちなみに半径10メートル以内に俺たち以外の生命体はもともと存在してない)


スッ。


落ちていた勇者の剣を拾った。


「とりあえずこれを持ってグリスフォン家に戻ることにするか」


俺は2人の生命反応が消えるのを確認してから歩き出した。


これが、早期発見型『あのお方』である。




あの事件から3週間が経過した。


勇者の剣は結果的にグリスフォン家を離れることになった。


グリスフォン家は公爵の爵位を取り上げられ平民となった。


もちろん、勇者の剣を奪われたというやらかしの結果である。


そんなこんなで時は流れて今日は学園への入学式に来ていた。


入学式が終わり教室へ移動する。


「おはようございます」


隣の席の人から声をかけられてそっちを見た。


「この前はあまりお話もできずに申し訳ございませんでした」


そう言ってくるのはリーゼロッテ令嬢。


「ヴァカムスの件は残念だったね」


そう言ってみるとリーゼロッテは笑ってた。


「いいのですよ。あんな男。消えてくれて清々しましたわ。私彼のこと嫌いだったので」

「へぇ、じゃあなんで婚約の話を?」

「政略です。嫌なのに言い寄られていて困っていたのですよ。ですが死んでくれて感謝しております」


それからリーゼロッテは聞いてきた。


「そういえば知っていますか?巷で流れている噂」

「どんな?」

「なんでも『あのお方』というすごい人がいるみたいですよ」


俺はそれを聞いて思わず口元が緩んだ。


(ふへ、ふへへへ)


あのお方かぁ。


久しぶりに聞いたなそのフレーズも。


俺はあれから貴族らしく平凡な毎日を過ごしていたせいで、家からほとんど出ていなかったし。


というよりぶっちゃけ俺の所業が実はバレているのではないかと少しビクビクしていた。


だって初めての『あのお方』経験だったしね。


まぁ、俺の経験は完璧だったのでそんなことも無かったのだが。




リーゼロッテは続けた。


「1人の少女がカツアゲされている時さっそうと現れてカツアゲ犯から守ってくれたそうですよ。あのお方さんが」

「正義の味方だね」


俺がそう答えた時だった。


ガラッ。


扉が開く。


中に入ってきたのは金色の髪をした優男だった。


キラーんとしている表情。


スッとした鼻。


一言で言えばイケメンである。


リーゼロッテが話しかけてきた。


「あの人知ってますか?」

「しってるよ。勇者でしょ?」


あのあと勇者の剣はとある人物に渡ることになった。


それがアドニスという男だ。


俺の視線の先にいる男。


俺と目が合うとニコッと笑いかけてくる。


眩しいくらいの笑顔で思わず目を逸らした。


(苦手なタイプだな)


だがまぁ、今回の勇者は殺さずに済みそうだな。


前回の勇者であるヴァカムスは勢い余って、つい殺してしまった。


その事については俺は反省している。


だから今回の勇者は死なないように『あのお方』をやろうと思う。


(できるだけ長く『あのお方』をやりたいしね)


それにしても学園編は楽しみだな。


やっぱり暗躍系と言えば学園もセットだよね!


俺が1番ワクワクしている!

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