第4話初めての『あのお方』
どれくらい時間が経っただろうか。
ヴァカムスの自慢話を聞いているとだんだん眠くなってくる。
まぁなんとか寝ないように頑張って起きていた。
しかし、ほとんど話の内容は覚えていない。
(リーゼロッテもイヤそうな顔をしてるな)
気付いてやればいいのに、ヴァカムスは話を続ける。
「俺は勇者の剣を使って学園でも無双してやるぜ!はっはっは!」
そのときだった。
俺は【鷹の目】というスキルを使い別の場所に意識を飛ばしていたのだが……。
どうやらチンピラが屋敷内への侵入に成功したらしい。
そして、俺の指示通り勇者の剣の保管場所に向かっている。
ちなみにだが俺はこの家には何度も来たことがあるし生活パターンは把握している。
今は廊下などに人がいない時間なのだ。
そのため、チンピラたちは順調に保管場所に向かっていた。
そして、扉を開けた。
中に入ると指示通り勇者の剣を取ろうとしていた、ところだった。
俺は現実に意識を戻す。
「ヴァカムスさん?もう一度あの勇者の剣、見せて貰えないかな?」
「いいぜ。ついてこいよ」
自慢したくてしたくてしょうがないと言った感じのヴァカムスはズンズンと歩いて部屋の外に出ていった。
保管場所に続く廊下に出た。
廊下には赤いカーペットが敷かれており、いかにも貴族の家って感じの廊下だった。
ヴァカムスは違和感に気付いていた。
「なんだ?この汚い足跡。カーペットに俺の知らない足跡が混じってるぞ」
「この足跡?向こうに続いてますね」
「やばい。あっちは保管庫だぞ?!」
ダッ!
ヴァカムスは走り出した。
「浸入者なのか?!しかし、なんで?!警備は万全なはずなのに!」
走る、走る。
やがて保管庫の前に着いた。
ヴァカムスはドカッと扉を蹴った。
「や、やられた……」
顔には絶望の色が浮かんでいる。
中は既にもぬけの殻。
勇者の剣は奪い去られており、更には周りにあった高そうな装飾品なども根こそぎ取られていた。
どうやらあのチンピラ連中は俺の言った通りにやってくれたらしい。
俺の肩を掴んでくる。
「やばいぞ、これ!こんなの知られたら俺は処分されちまう!知ってるだろ?!勇者の剣が王様から預けられたものだって!殺される!」
俺は笑いそうになっている顔をなんとか抑えて答えた。
「取り返しましょうよ、ヴァカムスさん。幸い敵は足跡を残してる」
俺は床にべったりと残った足跡を指さした。
足跡は入口とは真反対にある窓の方に続いていた。
「あの窓から出ていったってか?」
「おそらく。早く追いましょう」
「お、おう!」
◇
「ったく、なんで雨なんだよ。あいにくすぎるだろ?!昨日も雨だったぞ?!」
ヴァカムスは喚きながら走っていた。
そして、俺たちはそれでも昨日の廃墟の前まで来れていた。
「足跡はここで途切れてる、この中に入ったってか?」
「もっともっと逃げられる前に捕まえましょう」
「そうだな、こっからは静かに行くぞ貧乏人」
スっ。
ゆっくりと扉に手を伸ばしたヴァカムス。
ゆっくりと開けて中に入っていく。
しばらく歩いたところで物陰から人が飛び出してきた。
「死ねやぁ!」
「スラッシュ!」
ヴァカムスは襲ってきたやつを返り討ちにしていた。
だが……
「ヴァカムスさん。連続で襲いかかってきてる!」
「任せろ!」
ザン!
「ぐぎゃぁぁあ!!」
ザン!
「うぎゃぁあぁあ!!」
ヴァカムスは剣で敵を切り裂いていく。
俺もパンチやキックで敵を殺していく。
人を殺すのに武器はいらない。
弱点を正確に攻撃できて、そこに攻撃力があればこの世界の人間は殺せる。
そうして、ついに残すところ敵はリダの1人になった。
リダは勇者の剣を俺たちに向けてくる。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ。くるのがはええよ、こいつら。こんなヤツらがいるなんて聞いてないぞぉぉぉ……」
涙を流しながらヴァカムスを見ている。
「なぜ、それを盗んだ?成功すると思ったのか?」
「……うぐぅ……うぇぇ……」
リダは四つん這いになってその場で吐いた。
「げほっ……ごほっ……おべぇぇぇ……うげぇ……っぱ、無理なんだよ、俺らただのチンピラなのに……」
その様子を見ながら俺はヴァカムスに話しかけた。
「ヴァカムスさん、おかしくないですか?あの屋敷の警備は完璧だった。それに侵入者がいたのに女騎士が駆けつけなかったなんて」
「おかしいよな。だからそこはこいつらに聞くつもりだ」
ヴァカムスは歩いてリダに近寄った。
髪の毛を掴んで顔を挙げさせた。
「お前らどうやって俺の屋敷に侵入した?」
リダは質問には答えなかった。
泣き叫ぶ。
「助けてくれ!いるんだろ?!どこかで見てるんだろ?!この光景を!剣は持ってきた!早く助けてくれ!俺は約束を守った!あんた強いんだろ?!」
シーン。
助けは来ない。
だって、俺が助ける気ないから。
パーン!
ヴァカムスがリダの頬をビンタした。
「喚くな落ち着け。なにがあった?他にもまだ仲間がいるのか?」
殴られて気持ちが落ち着いたのか、リダはゆっくり口を開き始めた。
「計画書だ。俺たちは指示されてやっただけなんだよ」
リダは懐から計画書を取りだした。
俺はリダの手に向かって身動きひとつ取らずに魔法を放った。
【ファイア】
ゴウっ!
計画書は一瞬にして燃えカスになりリダの手もついでに燃えた。
「う、うわぁあぁぁあぁぁぁあ!!!!」
「しっかりしろ!」
ヴァカムスがリダの手の火を消していた。
しかしリダの手はもう使い物にならない。
黒焦げになっていてもう動かないだろう。
「も、もうやめてくれ。俺から話せることはなんもねぇ。見ただろ?今の」
「おい、話せることだけでも話せ」
リダは俯いてポツリと呟いた。
「あの……」
ピシャーン!!!!!!
鋭い雷を落とした。
「────────────お方、だ」
ゾクゾクゾクゾクゾクゾク!!!!!
背筋を快感が駆け回った。
お母さん、今日俺の夢が叶ったよ。
やっとだよっ!『あのお方』って呼ばれた!
俺今この世界を裏から完全に支配してるよ!
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