第2話 主人公を定めよう


あれから一週間ほどが経過した。


俺は代わり映えのしない日常を送っていた。


貴族の子供は16歳まで割とやることもなく暇なのだ。

(ちなみに16からは魔法学園という学園通うことになる)


なので貴族の子供はそれまで暇な一日ゴロゴロしてたりする。


かく言う俺もそうだし今日も退屈なのだろうと思っていたのだが父親の一言で一変する。


「今日は公爵家の息子がくる。粗相のないようにな」


「公爵家と言うと【グリスフォン家】のバカ息子ですか?」


「あぁ、あそこのヴァカ息子がやってくる。粗相のないように、な」


俺は頷いて父の書斎を出ていくことにした。


庭に出たその時だった。


ガシャン!

ガシャン!


(なんだ、この騒音は)


音の聞こえる方向に目をやるとガラの悪そうな男がウチの門を蹴っている音だった。


「おい、開けろ貧乏な愚民。侯爵家の分際で戸締りなど生意気だぞ。俺を不快にした罪により罰金1億」



【ヴァカムス・グリスフォン】



男の顔を見た瞬間、そんな名前を思い出した。


俺は営業スマイルを浮かべながら門に近付くと開けた。


「こんなところまでお疲れ様ですヴァカムスさん」


俺はなるべく頭を低くしながらゴマをするような態度で応対。


「ふん。アノン。お前は俺の金魚のフンだからな。その調子だ!」


(金魚のフンか)


心外だが、まぁいい。


俺の父親はこいつの父親より格下だし。


「それで、なんの用なんでしょう?」

「ふん。貴様を我が勇者パーティの荷物持ちに加えてやろうと思ってな」


そう言うとヴァカムスは背負っていた剣を手に取った。


「それは?」

「【勇者の剣】!勇者になるのに必要な剣だ。俺はこれを手に入れた。つまり勇者である!」


ガーハッハッハッ!!!!


高笑いしていた。


(こいつを勇者に選んだのが誰か知らないけど、バカだよなーー)


ビシッ!


ヴァカムスが指さしてきた。


「魔王を倒すやつは主人公、よって俺は主人公。主人公サマのパーティメンバーになれることを喜べ」


「わーい、うれしいぞー光栄だー(棒読み)」


「ぬははははは!!!そうだろう!」


そう言うとヴァカムスは俺に背中を向けた。


「帰る」


「えっ?もう帰るの?」


肩を落とした。

てっきりなにか用事があるのかと思ったのだが。


「俺の用事はお前をパーティメンバーに入れることと、【勇者の剣】を自慢することだけだ。終わったので帰る」


(あっ、そっかぁ)


ズンズンズン。


ヴァカムスは歩いて門の外に出ていった。


それから最後に振り返って言った。


「ぬはははは!!愚民。俺がいなくても鍛錬しておけよ!我らはいつか世界を救う勇者になるのだからな!」


バタン!


ヴァカムスは馬車の扉を乱暴に閉めるとそのまま帰って行った。


(まぁいい)


次の物語を始めよう。


脚本はもちろん俺だ。



俺は部屋に戻ると優雅にティータイムと行くことにした。


そして、さっそく今後の展開をねり始める。



・悪役が悪いことしたぞ!→主人公が問題を解決する!→悪役うぎゃー!!



俺は王道のストーリーっていうのはこういうものだと思っている。


そして黒幕の俺の役目はこの状況に持っていくまでのサポートをしてやることだ。


「さて、どういうストーリーにするか……」


少し考えて俺はこういうストーリーを作り上げた。



悪役がヴァカムスから勇者の剣を奪う→(中途略)→ヴァカムスが悪役から剣を取り返してハッピーエンド。そして俺が裏切る。



「よし、これで行こう」


ただし、ひとつ問題がある。


それは、勇者の剣を都合よく奪い取ってくれる悪役さんやイベントが都合よく発生してくれるかどうかだ。


たぶん、しないよね?


だが安心して欲しい。そこで黒幕である俺の出番だ。

俺が事件を起こす元凶になるのだ。


さて、


「行きますか」


俺はこの時に備えて用意しておいた黒い仮面と黒いローブを羽織って部屋を出ていくことにした。



街の中を探し回ってた。


求めるものは何?


悪役だ。


でも、いなかったよ。


(悪役ぜんぜんいないじゃん……どこにいるんだ?悪役は)


漫画やアニメではすぐに出てくる悪役。


ぜんぜん見つからん。


頼んでもいないのに、すぐに女の子ナンパしたりてるじゃんお前ら。


何処にいるの?お前ら。

それとも、この世界にはいないの?


俺が諦めかけていたそのとき……


ドカッ!


バキッ!


何かを殴る音が聞こえた。


「おぉっ?!」


俺は興奮しながら音のする方に向かっていった。


裏路地から聞こえていた。


俺は壁に背を預けながら半身だけ覗かせてそちらを見た。俺は【暗視】スキルを持っていて夜の中でも昼のように周囲を見ることができる。


「へへっ、ラッキー」


「リダさん。こいつかなり持ってますよ」


「どうやらそのようだな。次のやつ狩りにいくぞ。今日は稼げるかもなー」


ちょっと見ただけじゃ流れは分からないが、たぶん。こうだと思う。



・不良みたいな奴ら2人組が小さくうずくまった子供からお金を奪い取った現場。



「か、返してください。お母さんの治療費なんです」


「うるせぇぞ!雑魚!」


バキッ!


男が子供を殴っていた。


確定だ。


この2人はただの街のチンピラって感じでちょっと情けなさそうだけど、贅沢も言ってられん。


こいつらをヴァカムス邸に送り付ける!


そうと決まれば俺は強烈な第一印象を与えるためにも雰囲気作りから取り掛かった。


【天候操作・どしゃ降りの雨】


「リダさん。急に雨が降ってきやがりましたよ」

「さっきまで晴れてたのにな、ずらかるぞ」


タッタッタッ。


男たちは路地を出るために、俺の立っている方向に歩いてこようとしていた。


だが。


そこで俺はヌッと姿を現した。


まるで、強敵が現れるのにはこれ以上ないくらい完璧な雰囲気だよな。


「こんなところで何してるのさ、俺も仲間に入れてよ」



反応したのはリダと呼ばれた方の男。


「あ゛あ゛ん?なんだァ?仮面野郎」


俺とこいつらの関係はこれから長いものになると思う。


だから名乗っておくことにした。


「俺のことが知りたいのか?(聞きたいよな?そうに決まってるよな?)いいよ。教えてあげる」


【天候操作・雷】


その瞬間、ピシャン!


と雷が鳴った。


「我が名は……」


ピシャン!!!!


ゴロゴロゴロゴロゴロ!!!!


「アノ・オカタ」

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