第2話 人形との生活


その後はお盆になるまで特にやることは無く家でゴロゴロしていた。


あれから蔵にも行っていないし、人形のことも見ていない。

このまま祖父の仕事紹介で終わるのかなーって思って、のだが。


お盆になると周りの人達は忙しそうだった。


この村への来客が止まらなかった。


「お客さん、すごいね」


俺はお母さんにそう言った。


普段は人口10人とかの村らしいのにこの数日で20人くらいになってた。


「日本中に散っていたこの村の親族たちが集まってるのよ」

「へー、すごい数だねー」

「この時期はね、いろいろあるのよ」


俺が母さんと会話していたときだった。


爺ちゃんがヌッと居間に入ってきた。


「おはよう、シュウヤ」


ニコニコとした笑顔。


そして、その横には例の人形がいた。


「あれ?人形?」


俺がそう聞くと爺ちゃんは首を横に振った。


「この子は彩花と言う」


「?????」


突然の名前呼びに頭の中真っ白になった。


なんで?人みたいな名前付けてるんだろう?


この前は人形って言ってたじゃないか。


そんな疑問が頭の中をグルグルしていた。


その時、爺ちゃんが俺の横に人形を置いた。


「シュウヤ、彩花と遊んであげなさい」

「遊ぶってなにを?」

「いいから、なんだっていいんだ。ゲームをやるなら一緒にやりなさい」

「……?」


俺はこの時になって初めてこの爺ちゃんを不気味だと思うようになった。


そして


「シュウヤ、彩花ちゃんと仲良く、ね」


母さんにもそう言われた。


俺はよく分からなかった。


それから俺はなにをするのも人形といっしょにさせられた。


食事もそうだし、遊びもそうだし。


なにをするにしても人形が隣にいた。


そして、一番キツイのが


「布団、2人分用意しておいたからね」


寝るのも人形といっしょという点であった。


「えぇ……」


俺の横に人形が寝かされてた。


「俺、これの横で寝んのかよ……」


マジで嫌なんだけど……。


動き出したりしないよな?


くっそリアルな分横で寝られるのは本能的恐怖ってやつを感じていた。


「はぁ、くそ」


俺は人形に背中を向けて横向きに寝ることにした。


正直眠れる気がしなかったんだけど、意外にもすんなりと寝れた。


夜中に人形が動きだしたりはしなかった。


期待してたような、良かったような。


動いてくれてたら話のネタにはなったんだろうけどさ。



「シュウヤー朝よー、起きてー」

「んん……?」


翌日の朝母さんの声で俺は起きた。


真横では目を閉じた人形が寝てた。


夢ではなかったのだ。


(夢かと思ってたんだけど、夢じゃないのか。はぁ)


ため息吐いてると母さんが声をかけてきた。


「彩花は目が開けられないから開けてあげてくれる?それから食堂まで連れてきてあげて」

「はーい」


俺は人形、彩花のまぶたを開けて上げることにした。


よく漫画やアニメで死体のまぶたを撫でて閉じさせるやつあるじゃん。


あれの逆再生をやったら簡単に空いた。


閉じるのも簡単だと思う。


「さてと」


俺は彩花を抱えて食堂に向かうことにした。

自分でも「なにやってんだろうな」って思ったけど、みんなあまりにも自然体で彩花と接するものだから俺もそうすることにした。


結論から言うとここから一週間何も無かった。


なにか霊障のひとつでも起こるのかなーとか思ってたけど、そんなことはなかった。


初めの3日くらいはビクビクしてたけど、何も無くて、逆に驚いたくらいなのだが。


一週間も経てば彩花がいるのが普通になってきていた。


そんな時のこと。


お盆最終日に爺ちゃんは言った。


「彩花、なにか願いごとはないか?」


朝食の時間俺の横に座ってる彩花に爺ちゃんは聞いていた。


ちなみに、もちろんの話彩花が飯を食うことは無い。

ただ黙って座っているだけだ。


「ふむ、そうか」


爺ちゃんは頷いてた。


彩花はなにも言っていないけど。


「分かった」


爺ちゃんは母さんに目をやった。


「ノリコ。あの衣装のことは覚えてるか?ワシの仕事場に一着ある。持ってきてくれないか?」

「はい。持ってきますね」


そう言って母さんは食事が終わると家を出ていった。


俺は爺ちゃんに聞いてみることにした。


「俺はいつまで彩花と一緒なの?」

「安心せい。今日までじゃ。な?彩花?」


爺ちゃんの問いかけにも彩花はなにも答えない。


ただの人形だもん。

喋る訳もなく、動くわけもない。


その後俺は食事を終えると爺ちゃんの部屋に呼び出された。


「困惑しているだろう?シュウヤ。訳も話せずすまんかった」

「えぇ、まぁ。正直不気味だったよ」

「まぁ無理もないだろうな、しかし彩花はなにもしなかったろう?それで許してくれ」

「まぁ」


そう答えると爺ちゃんは俺になにかの紙を渡してきた。


学校でもらうくらいのA4のプリント用紙。

見慣れたサイズの大きさの紙。



「声に出さず、読んでおきなさい。今夜で終わる。決して声を出さず読むんじゃ。いいな?ここからはぜったいに声を出すな」


何度も念を押してそう言うと爺ちゃんは俺を見ながらその場で立っていた。


読め、と言いたげな無言の重圧。


(終わる?なにが?)


俺はそう思いながら爺ちゃんの使ってるソファに座って紙を読むことにした。



【シュウヤへ】

難しい言葉は使わん。


簡単に説明する。


今日はこれより厄祓いを行う。

シュウヤはワシに言われたことだけ聞いて実行せよ。


途中でなにが起きてもぜったいに余計なことはするな。

怖いことが起きたとしてもワシの言うことだけを聞け。


どうしても怖くて目を背けたくなれば耳を塞いで目を閉じてうずくまれ。


それで終わりだ。


"彩花、あの人形になにか声をかけられたとしても、ぜったいに受け答えや会話をするな"


すべては厄祓いが終わってから、説明する。

ワシが「すべて終わった。なにも気にするな」と言うまで余計なことはするな、言うな。分かったな?お前は黙っていればいい。









俺はそれを読んで頷いた。


これから、なにか始まろうとしてる。


ていうか


「なんだよ……」


呟いたら爺ちゃんが怒鳴る。


「シュウヤ!声を出すなと言っただろ?!」


ものすごい形相。


「やばいことしちゃった?」

……だが、今からはもうなにも話すな。驚くようなことがあっても、なにも言うな?お口チャック。分かるよな?お前は黙っていればいい。それで終わる」


こくん。


俺は首をたてに振った。


(彩花に声をかけられるってなんなんだよ)



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