第3話 厄祓い
手紙を読んだあと俺は村のハズレにある小さな社の前に来ていた。
本当に小さな神社だったのだが。
誰か手入れをしているのか綺麗な神社。
社の前にいると母さんが彩花を連れてやってきた。
彩花は服装が変わっていた。
まるで、花嫁のような姿をしていた。
ドレスって言うんだろうか?
そんな姿。
彩花を俺に渡してくる母さん。
「シュウヤ。優しくしてあげてね」
こくん。
頷いて俺は彩花を受け取った。
別に動いたりしゃべったりする様子は無い。
そのあと爺ちゃんがやってきた。
「シュウヤ。君と彩花は婚約した」
(え?)
驚いたが、口には出さない。
いきなりの事だったが、俺の理性はまだ限界を迎えていない。
「今日はそれを祝おうと思ってな、シュウヤ。おめでとう彩花」
そんなことを言ってくる爺ちゃん。
それから、爺ちゃんは社の方を指さした。
「村のしきたりでな。婚約した2人は社で朝を迎える、というのがある。だから今晩はそこにいてくれればいい」
意味わかんないけど俺は頷いた。
「よし、じゃあ行こうか」
爺ちゃんに連れられて俺は社の中に入っていった。
綺麗な掃除の行き届いた部屋だった。
なんていうんだろう?清潔感のある部屋。
でも当たり前だが家具とかは無い。
生活するようには出来ておらず、なんらかの【儀式】をするような部屋っていう印象を受けた。
それから入口とは真反対の方角には鉄の扉があった。
その上には掛け時計。
現在の時刻は正午前。
鉄の扉を指さして口を開く爺ちゃん。
「あそこには入るなシュウヤも、彩花も。分かったな?あそこに入らなければ好きにするといい」
ちなみに、当たり前のように布団が二つ用意してある。
(こんな場所でこの人形と一晩かよ……)
俺がそう思ってると爺ちゃんは言った。
「ここからは指示通りにやれよ?シュウヤ。それと飯はここに用意しておく。腹が減ったら分け合って食べるといい」
ごとっ。
爺ちゃんはこの社に一つだけあった小さな机の上に食べ物を置いた。
おにぎりが4つくらい。
それからよく分からない、おかずがいくつか。
「じゃあ、また明日会おうな」
爺ちゃんは社を出ていった。
「……」
俺はだんまりを続けてそのまま布団にくるまる事にした。
気が気でない。
外からは知らない人たちの声が聞こえてくる。
おそらくだが、この村に集まってきた人たちの声だろう。
ワイワイ騒いでいて俺と暮らしている世界が違うことを思い知った。
俺は布団の中でガクガク震えながら、亀のように丸まって耳を塞いで目を閉じて時間の経過を願っていた。
(こわい、こわい、こわいこわいこわいこわいこわい)
当時小学生の俺にこの恐怖は耐えきれないようなものだった。
しかも耳を塞いでいても完全には音が遮断されない。
カチッ。
コチッ。
カチッ。
コチッ。
時計の秒針が進む音は妙に大きく感じられた。
◇
寝ていたようだ。
あまりの恐怖に俺は気絶したように眠っていたらしい。
布団の中で丸まって寝ていたようだ。
(今何時くらいだろう?朝になってたりしないかな?)
ガヤガヤガヤガヤ。
外からはまだ誰かが騒いでるような声がした。
案外そんなに時間が経ってないのかもなぁとか絶望したりした。
(時計、確認してみるか?)
考えてみた、けど。
(いや、やめておこう)
あまりの恐怖に辞めておいた。
このまま布団でくるまって目と耳を塞いでいたら全部終わる、とそう思ったからだ。
それからどれくらい時間が経過しただろう。
たぶん、体感的には数時間くらい経過したと思う。
布団の中は熱いはずなのに妙に寒かったのを覚えている。
そんなときだった。
ガン!
扉が毛破られるような音がして、そのあと。
ズチュッ!
なんの音かも分からないような音が鳴っていた。
何度も、何度も鳴っていた。
そして、その音に混じるように別の音も。
ビチャッ!
まるで硬い床になにかの液体が飛び散るような音。
その液体は俺の布団にもかかったようだ。
じっとりとしたその液体が俺の布団を濡らしていく。
これがなんなのかは考えたくない。
それでも怖くて俺は動けなかった。
カランカラン。
なにかが傍に落ちたような音。
その後に声が聞こえた。
「すべて終わった。なにも気にするな」
爺ちゃんの声だった。
俺はそれでもブルブルと震えていた。
その時だった。
ガバァッ。
布団が剥ぎ取られた。
「ひっ!」
ビビってると爺ちゃんは言った。
「すべて終わった。気にするな」
「なにが?気にするな、なの」
「気にするな」
やめとけばいいのに、俺は人形があった方に目を向けてしまった。
四肢を切り落とされた無惨な人形の姿がそこにはあった。
そして、その近くには赤い液体が付着した斧が転がっていた。
何が起きたのかは一目瞭然であり。
って言うことは、飛び散っていたのは……。
「血?!」
俺がびっくりしていると爺ちゃんは笑っていた。
「違うよ。絵の具だよ。絵の具を溶かした水だ」
爺ちゃんは床に飛んでいた赤い液体を指で取るとそれを紙に押し付けた。
「絵の具。血なまぐさいにおいもしないだろ?」
そう聞かれて俺はスンスンとにおいをかいで見ることにした。
「たしかに、血ってくさいもんね」
「それより、よくがんばってくれたな、シュウヤ」
爺ちゃんは俺の頭を撫でると人形の残骸を回収し始めた。
そして、俺には入るなと言っていた扉の前に向かっていくと、扉に手をかける。
すんなりと、扉が開いた。
その中にはたくさんの、人形が置かれてあった。
そのどれもが四肢がなかった。
胴体と顔だけで、まるで美術品のように並べて保管されていた。
「なんなの?これ」
そう聞くと爺ちゃんは答えた。
「だるま花嫁様だ」
そう言って手を合わせながら、彩花と呼んでいた人形も棚に並べだした。
「いつも、ありがとうございます。だるま花嫁様」
手を合わせていた。
なんだか分からないけど俺も手を合わせることにした。
「ありがとうございます。だるま花嫁様」
でも、俺は爺ちゃんに聞いてみることにした。
「悪趣味だね」
「理由もなくやっている訳では無い。日が登ったら説明しよう」
で、俺はこのとき爺ちゃんにポツリと漏らした。
「そういえばさ。爺ちゃんにいろいろ言われた時は人形が動くんだと思ってたよ。喋ったり、さ。でも、そんなことなくてちょっと安心したよ」
そう言うと爺ちゃんは言った。
「何を言ってる。彩花はお前の布団の周りをグルグル回ってボソボソ呟いてたぞ?『シュウヤくん』って、繰り返して」
その瞬間、俺は血の気が失せたような感じがした。
あのとき、俺は時計を確認していたらどうなっていたんだろう?
【補足】
時計確認で分岐します
今回はハッピーエンドなのであっさり終わります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます