だるま花嫁様
にこん
第1話 出会い
俺の母親の実家がある小さな村にはかなり独特な風習があった。
山奥の小さな村で外界との接触もあまりなかったため、歪んだ風習ができたのかもしれない。
先になにが歪んでいたかって言うけど、いわゆる【厄祓い】ってやつ。
どこにでもあるだろ?
一般的なもので言うならそうだな。
福は内、鬼は外で知られる、節分の豆まきってのが一番一般的だと思うんだが、うちの村では豆まきはなかった。
代わりにあったのは【だるま花嫁様】ってやつ。
今回はそれについて話そうと思う。
あー、なんていうか、この話を誰かに聞いてもらいたくなってさ。
俺一人で抱えたくないような、そんなお話だから。
◇
ウチの村について追加説明するけど、昔から人形作りが盛んだったみたい。
無駄に精巧な人形を作るってことで有名な人形師もいたみたいで、その人が作った人形は高値で取引されていたそうだ。
一番有名な人形師で言うと【阿頼耶法蓮】って人物だったらしい。
ちなみにこれは俺の爺ちゃんだ。
まるで、本物の人間そっくりの人形を作るってことで有名だった。
どれくらい人形がリアルかって、話をすると。
俺も爺ちゃんの人形を初めて見た時は"本物"かと思ってしまったくらいだった。
というよりさ。
言ってしまうけど、髪の毛なんて本物の人間の髪の毛使ってるんだよ。
ちなみにこの爺ちゃんは俺の母親の父にあたる。
んで、爺ちゃんが使ってた本物の髪の毛、なんだけどさ。
母さんの髪の毛だったんだよね。
母さんが子供の時に伸ばした髪の毛をざっくり切って、それを使ってたらしい。
ここで疑問に思う人もいるかもしれないね。
人形にそれだけの長さの髪が必要なのかって。
必要になるようなサイズの人形も作ってたから、だよ。
だから俺はそのサイズの人形を見た時は本物かって勘違いしたこともあった。
でさ、この人形が厄介なんだよな。
本当に本物そっくりだったから。
ここまで長々と話してきたけど今から本題に入ろうと思うんだ。
俺が小学生のころのお話。
◇
小学4年生の夏休み。
俺は母親に連れられて爺ちゃんの家に帰省していた。
母親も久しぶりの帰省らしくて、俺なんかは初めて向かう場所だった。
本当に山奥の小さな村。
人口10人くらいしかいない、小さな村。
今どきこんな村あるんだなって思ったのがその時の感想だった。
この話自体は2000年代の話だ。
だから過疎地に人がいないことなんて知っていただけに驚いた。
もちろん当時はネットも通っていないような場所。
おそらくだけど今も通ってないんじゃないかな?
でもそんな場所でも電気が来ていたことには驚いた。
「いらっしゃい、ノリコ、シュウヤ」
家まで来た俺たちを爺ちゃんは笑顔で迎えてくれた。
頑固そうな顔の割には意外といい笑顔を浮かべてた。
で、爺ちゃんは俺の顔を見てきた。
「シュウヤ。せっかくこんなところまで来たんだし、ワシの仕事、見てみないか?」
「仕事?」
こくんと頷くじいちゃん。
俺はすぐに返事をした。
「うん、見てみたいっ!」
この時はこの歪んだ土地のことをまったく、知らなかった。
やめとけばいいのに、俺はこの村に関わってしまうことになった。
爺ちゃんは蔵を持っていた。
庭の片隅にある寂れた蔵。
「蔵?初めて見た」
「ほほほ。珍しいかな?都会の子には」
爺ちゃんはそんなことを言いながら蔵の扉を開けた。
すると、そこには女の子がいた。
黒髪。
黒い瞳、スラッと通った鼻筋。
ぷっくりした唇。
俺と同い年くらいの女の子。
もちろん、服は着ている。
ちょっと変わった服装をしていたけど、なんて言うんだろ?ゴスロリってやつなのかな?そんな服装だった。
そんな子が小さな椅子に座ってた。
「えっ?!」
あまりのことに驚いていると爺ちゃんは言った。
「偽物だよ偽物。お人形」
「え?!これが?!」
キョトンとしたのを覚えてる。
度肝を抜かれるっていうやつだった。
この時ほどの衝撃を感じたことは後にもなかった。
それくらいのリアルさだったから。
とにかく、それだけ似ていたから俺はその言葉を信じられなかった。
「嘘でしょ?本物でしょ、これ。ねぇ、君?」
俺は女の子に話しかけたが返事は無い。
「なんとか言ってくれたらそれで終わりなんだよ。この話は」
俺は近付いて女の子の体に触ってみた。
感触はぷにっ、じゃなくて。
ぺたって言う感じだった。
多分材質はシリコン(?)だと思う。
微妙に肌触りってやつが本物とは違ってた。
「あー、これ、本当に偽物なんだ」
俺はそれでも信じられなくて唇に手を当てた。
ゴムみたいな感触。
「どうじゃ?すごいじゃろ?ワシ」
爺ちゃんはその後、人形の靴を脱がして足裏を見せてくれた。
そこには【阿頼耶法蓮】という字が刻まれていた。
「うん。すごいよ!爺ちゃん!本物かと思った!」
その後に俺は髪の毛を触った。
サラサラの髪の毛。
これだけは妙にリアルだったし、本物なんだろうなっていうのは子供ながらに理解出来た。
で、俺はこの時に気付いた。
この蔵には似合わないものが壁にあったこと。
「あれ?斧?あんなものなんに使うの?」
この蔵には斧があった。
あー、安心して欲しい。
別に血なんて付いてないから。
この時は、ね。
「お人形さん関係で必要なんじゃよ」
爺ちゃんはにっこりと笑った。
この時の俺は「人形作りに必要な木を切ったりするのに必要なんだろうなぁ」くらいにしか思っていなかった。
そんなこともあり俺は人形を見てニヤニヤしていたのを覚えてる。
「この子かわい〜。クラスのどの子よりもかわいいや」
「シュウヤにそう言ってもらえて、人形も喜んでおるじゃろう。でも、しょせんそれは人形だよ。本物では無い。魅入られないようにしなさい」
当時、小学生の俺にその言葉の意味はよく理解できなかった。
そして、相手は人形である。
とうぜん、目が動いたりすることもなかった。
そして俺はこの後もこの子は人形だと認識をし続けた。
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