第四話

間隙の出会い

次なる戦果


「じゃあニアさんは、一度エリンディアに戻るんですね」


「コケー!」


「私たち独立騎士団がエリンディアを出発して、もうすぐ半年になる。エリンディアに戻るなら、帝国との戦いが停滞している今しかないわ」


 連邦の首都にある独立騎士団の本営。

 急ピッチで修復作業が進むイルレアルタの前で、ナナを肩に乗せたシータとリアンは、指揮官であるニアから今後についての話を聞いていた。


「それは分かった。だが、どうしてシータ君とイルレアルタを〝連邦に置いていく〟のだ?」


「円卓の戦いで生まれた猶予を使って、連邦はセネカ議長を中心に他の国々への反帝国同盟の締結を呼び掛け始めてる……そして連邦が各国との交渉の切り札にしているのが、たった一機でカスカータマグナを決壊させ、帝国最強の騎士団を撤退させたシータさんとイルレアルタなの」


「ええっ!? ぼ、僕とイルレアルタがですか?」


「確かにシータ君の活躍は私も凄まじいと思うが…一体いつの間にそんなに有名になったのだ!?」


「良くも悪くも、連邦は今まで戦ってきた国とは周囲の注目度が桁違いだから……今回の戦いで、これまで私たちのことを知らなかった国や勢力も、イルレアルタの……〝星砕き伝説の再来〟を知ることになったってわけ」


 かつて、天帝戦争で百を超える天契機カイディルを撃墜し、世界に終末を運ぶ大量破壊兵器ナグナルインすら射貫いた星砕きの伝説。


 それは権力や支配に一切興味を示さなかったエオインの人柄と相まり、今や絶対強者に立ち向かう〝自由の象徴〟としての地位を大陸全土で確立している。

 弟子という立場ではあるものの、すでに対帝国戦役で多大な戦果を上げているシータという存在は、窮地にある連邦にとって〝格好の旗印〟だったのだ。


「国同士の戦いにおいて、大義や名声はとても重要なことよ。それに今回シータさんと一緒に戦ったリアンだって、〝連邦の白き救世主〟だーって大騒ぎされてるじゃない……もしかして知らなかったの?」


「知りませんでした……」


「初耳だ!!」


「コケー! コッコッコ!」


「とにかく、そんな貴方が少しでも連邦を離れたなんて知られれば、一度叩いた帝国を勢い付かせることになりかねない。だからシータさんには形だけでも連邦に残って、エリンディアと連邦が引き続き協力態勢にあることを示して欲しいの」


「わかりました。みんなの役に立てるように頑張りますっ」


 ニアの言葉に、シータはほんの少しの不安を抱えながら頷く。


 これまで、シータは常にソーリーンやニアといったエリンディアの重鎮から手厚い庇護を受けてきた。

 そんなシータにとって、今回の一件は初めて彼女らの庇護下から離れるということでもある。

 そしてそれと同時に、シータがようやくエリンディアの人々から対等な仲間として信を得た証でもあったのだ。


「それで、リアンはどうするの? エリンディアに戻るか、連邦に残るのか」


「ほむ? 私が選んでもいいのか?」


「一応、マクハンマーさんや他の整備班の皆には連邦に残って貰うつもりよ。それに、最近のリアンは――」


〝最近のリアンは、シータさんといつも一緒にいるでしょう?〟……と。

 ニアは自然とそう口にしかけ、言い切る前に止めた。なぜなら――。


「うむむ……そうだな……確かに私もエリンディアには帰りたいが……けどシータ君が残るなら私も……一緒に強くなると約束もしたわけだし……いや、だがエリンディアの無事も……!」


「…………」


 ニアの良く知るかつてのリアンなら、このような時に悩むことはなかっただろう。

 戻るにしろ、残るにしろ、祖国のためであれば即決即断……それがこれまでの彼女だったからだ。


「あ、あのっ! 僕のことなら一人でも大丈夫ですから、リアンさんは気にせず自分のしたいように……」


「コケコケ!」


「う、うむ! シータ君がそう言うのなら、やっぱり……えーっと……うーん……?」


「ふふ……ならリアンには、シータさんと一緒に連邦の守りをお願いするわ。それでいいでしょ?」


「なぬ!? 本当にいいのか!?」


「もちろん。その方が連邦の士気も上がるでしょうし……それに私だって、〝人のあれこれ〟を邪魔して馬に蹴られたくないもの」


「???? なぜそこで馬が出てくるのだ??」


「こういう時くらい自分で調べてみれば? きっとすぐ出てくるわよ」


 ニアの言葉に揃って首を傾げるシータとリアン。

 そんな二人を微笑ましく見つめ、ニアはぱたんと書類束を閉じてくるりと背を向けた。


「ただ残念だけど、ここに残る皆にも色々とやってもらうことはある。特に二人には、連邦に残る独立騎士団のリーダーとして、無理のない範囲で〝戦果〟を出して欲しいの」


「戦果?」


「無理のない範囲でとは……また難しいことを言うな。具体的には何をすればいいのだろう?」


「戦果の形は色々あるけれど、その内の一つはもう私から連邦軍に提案して承認されてるわ。それは――」


 そこでニアは視線だけを二人に向け、その丸眼鏡の奥にある聡明な青い瞳をきらりと輝かせた。


「それは復興支援……シータさんとリアンには、カスカータマグナの決壊で被害を受けた、円卓周辺に住んでいた人たちの復興の手伝いをして欲しいの。もちろん、帝国軍への斥候もかねてね」

 

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