第2話 友だちキャンドルチャート
2-1 お休みクラスメイト
仲良し同士で集まって楽しそうに笑い合っていたり、自席で静かにスマホや本を眺めていたり。クラスメイト達はそれぞれ、思い思いに時間を過ごしている。
「おはよ〜」
双葉は早速、笑顔で挨拶をして女子グループの輪に加わっていく。
流石はクラスで一番の人気者。あっという間に会話の主導権を奪い去る。
「やっぱりクラス内カーストトップは違うねぇ」
「へぇ。由依ってそういう序列、意外と気にするのね」
「いや、気にするっていうか。事実だし?」
「事実、ね……」
四月の入学から一ヶ月ほど。最初の数日で自然と形成されたクラス内カーストは、今ではすっかりと定着していた。
そんな彼女とは到底釣り合わないと自覚している由依は、静かに自席へと移動して腰を下ろした。
由依の後ろを付いてきた茉莉亜は、立ったまま自分の机に鞄を置きながら不意に窓際の席に目を向ける。
「そういえば、あそこの席ってどうして空いているの?」
「えっ? ああ……」
ここしばらくはずっとそうだったので茉莉亜が言及するまで全く意識していなかったが、窓際の前から三列目が空席というのは考えてみれば確かに不自然だ。転校してきたばかりで事情を知らない茉莉亜が疑問に思うのも当然である。
もちろんあの席は本当に空席な訳ではない。座席表にはきちんと名前が記載されている。
由依がその席の人物を答えようとするよりも先に、口を挟んだのはクラス内カーストで一軍の、学級委員を務める
「あそこは
「理緒さん?」
「はい。
瑞穂が言い終えると同時、背の高い瑞穂の陰から小柄な少女がひょこりと顔を出した。
その人付き合いが苦手な杏が勇気を出して、おっかなびっくり、消え入りそうなか細い声で茉莉亜に訊く。
「
顔を真っ赤にしながら頑張って問うた杏に、茉莉亜は優しく微笑みつつ頷いた。
「ええ。折角クラスメイトになれたのに、まだ挨拶すら交わせていないんだもの。土屋さんは今、病気か何かなの?」
純粋な疑問を口にして首を傾ける茉莉亜に、言葉に詰まった杏に代わって瑞穂が説明を始める。
「いえ、病気とかではありません。昨日もお家にお邪魔しましたが、元気そうにしていましたよ。理緒ちゃんが学校に来ていない理由は、その……。クラスに上手く馴染めなかったから、だそうです」
理緒が学校に来ていたのは二日目まで。三日目からは完全に登校してきていない。
その理由を今、由依も初めて知った。
「馴染めなかったというのはつまり、友達の輪に入れなかったということ?」
「そうではない、と思います。理緒ちゃんは一人でも平気な人ですから」
瑞穂の答えを聞いて、今度は由依が首を傾げる。
「じゃあどういうこと?」
「う〜ん。実のところ、詳しいことはわたしたちも知らないんです。何度も聞き出そうとはしたのですが、理緒ちゃん本人に話す気がないみたいなので……」
いくら幼馴染だからといっても、無理に話させるような真似はしたくないらしい瑞穂。
あくまで理緒自身の気持ちを最優先に考えている様子だ。
でも、理緒が不登校になってしまったそもそもの原因が分からないのでは、解決の糸口など見えるはずもない。
困った表情を浮かべる瑞穂の、制服の袖を杏が摘まむ。
上目遣いで瑞穂の顔を見上げて、小さな口を動かす。
「私、は……。やっぱり、土屋さんに、学校、来てほしい……。土屋さんも、一緒が、いい……!」
ひどく震えた上擦った声で、絞り出した本音。
「杏ちゃん……」
普段感情を表に出すことの少ない杏がはっきりと自分の意思を示したことに、瑞穂は少し驚いた。
わずかに目を見開いた後、杏の縋るような瞳を真っ直ぐに見つめ返して頷く。
「はい、そうですね。一緒がいいですよね」
そう言って瑞穂は杏の頭をぽんぽんと撫でると、再び茉莉亜と由依に視線を向けた。
真剣な、改まった顔つきで頼み事を口にする。
「茉莉亜ちゃん、由依ちゃん。お二人には関係が無いことなのは重々分かっているのですが。理緒ちゃんが学校に来られるように、お手伝いをしてくれませんか?」
「お願いします」と深々と頭を下げる瑞穂。
その姿を見た杏も、遅れてぺこりと頭を下げる。
果たして茉莉亜は、その頼みを快く引き受けた。
「私達でよければ全然構わないわよ。私も土屋さんに会ってみたいし」
「本当ですか?」
「ええ、もちろん。ね、由依?」
「あっ、うん」
こうなってしまうと、由依にはもう拒否権が無い。
茉莉亜に従う形で、渋々この面倒そうな一件に首を突っ込むことになってしまった。
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