第9話 雪の中の海老

真っ白な雪が八甲田山を覆う寒い朝、水松つぼみは前夜に見つけた映像の中の人物の一人を特定する手がかりを求めて再び山へ向かった。彼女の頭の中は、映像に写るデモのシーンとギロチン仮面の可能性についての考察でいっぱいだった。


その日の捜索は、山の中腹にある一軒の古びた小屋で一時的な休憩を取ることから始まった。小屋は表向きは登山者の避難小屋とされていたが、内部に入ると、何者かが最近使った形跡があり、驚くべきものが見つかった。床には大量の海老の殻が散乱しており、誰かがここで豪華な食事をした後のようだった。


つぼみはこの奇妙な光景に戸惑いつつ、海老の殻を詳しく調べた。海老は地元の市場で売られているものとは異なる特徴的な種類で、おそらく遠方から持ち込まれた高価なものであることが分かった。この発見は、この小屋を利用した人物が単なる登山者や地元民ではなく、何らかの目的で特別な食材を用意していたことを示唆していた。


彼女は小屋の周辺をさらに調査し始めた。雪の中に新しい足跡を発見し、それを辿っていくと、小屋から数百メートル離れた場所に隠された冷蔵ボックスを見つけた。ボックスの中にはまだ冷えた海老が残されており、どうやらこの場所が誰かの隠れ家である可能性が高いと考えられた。


つぼみはこの情報をもとに、海老がどこから来たのか、どのようにしてこの山中に運ばれたのかを追跡するため、地元の漁港と市場を訪れることにした。市場の情報によれば、この種の海老は特定のレストランや富裕層にしか供給されていないという。


この手がかりを頼りに、つぼみは海老を注文したレストランのリストを手に入れ、それらの顧客リストからギロチン仮面の正体に近づく新たな情報を求めた。それぞれのレストランに聞き込みを行う中で、ついにある政治家がこの特定の海老を頻繁に注文していることが判明した。


事件の背後に政治的な動機があるのかもしれないと疑い始めたつぼみは、更に深く調査を進める決意を固めた。彼女の直感が、この謎を解く鍵を握っていると信じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る