第4話 決戦・湊川

 後醍醐天皇に“反旗”を翻した足利勢は瞬く間に京都へと進軍した。

  しかし、陸奥から北畠顕家、さらに楠木正成の軍勢に攻め立てられ、制圧した京都を放棄。九州へと逃れた。

 楠木正成は、この勝利を利用して、

 「足利との和平を」

 と朝廷に訴えたが、公家たちは尊氏への勝利の余韻にひたり、

「この勢いで賊軍を撃滅せよ」

「足利一党など捻り潰してしまえ」

 と逆にさらなる攻撃を指示。

 義貞は命令通り足利討伐の軍勢を進め、足利方に味方した赤松則村の籠る播磨国の白旗城を攻め立てた。

 義貞らが白旗城包囲に気を取られている間に、尊氏は足利支持の九州諸領主を糾合し、兵を増やしていた。

「白旗城は降伏せぬか……」

 落胆する後醍醐天皇。

「義貞が敗北しましたら、京はあぶのうございます」

 朝廷は、楠木正成に義貞方へ加勢するよう命じた。

 それに対して正成は、天皇が比叡山に隠れ、足利勢が京に入ったところを攻撃するよう提案した。

 公家たちは、

「今年の一月に叡山に難を逃れたばかりよ」

「京を離れることは具合が悪い」

「帝のご対面を損ねるぞえ」

 と突っぱねた。

 正成は止む無く京を離れ、義貞の援軍に向かった。

 途中、桜井の駅まで進軍した時、正成は息子の正行を呼んだ。

「父はこの戦いで死ぬ。わしの死してなす軍功とそなたのこれからの軍功とで、内裏でしかるべき冠位を受け、兵馬を得たならよいな」

「……」

「帝を蔑ろにし、われら侍に死を強要し、民の糧を貪り喰らい、商人のたくわえを南京虫のごときにすする君側の奸どもを誅せ」

「父上……」

「よいか。不良公家どもは悉く……根絶やしにするのだぞ」

 正行に“使命”を与え河内へと返した。

 楠木正成勢と新田義貞勢は、摂津で足利尊氏勢を迎え撃とうとした。

 九州に逃れた足利勢は多々良浜の戦いで勝利し勢いに乗る。

 摂津国(現在の兵庫県神戸市)の湊川付近についた正成勢は楠木一党のみで編成。

「西国のように、途端に足利勢に転ばれてはたまらぬからな」

 と正成。会下山に陣をはった。

 足利勢は陸海両面に陣を敷いた。

 先に海から直義軍が上陸。

 知らせを受けた義貞。直義軍を迎え撃つべく浜へと向かった。

 それを見た正成。

 「いかん。それは囮ぞ」

 正成の声が聞こえるはずもなく、義貞軍は直義軍へと向かっていった。

「義貞!あの女御に脳天まで吸い取られたか。ノウ無し。ボンクラが」

 拳で鞍をガンガンたたいて怒る正成。

 大軍の尊氏軍と戦う羽目になった楠木一党。奮戦したが多勢に無勢。

 一騎また一騎と次々に討たれ、七十騎あまりになって戦線を離脱した。

 離れた無人の民家にたどり着くと、もはやこれまでと覚悟を決めた。

 互いに刺し違えようと脇刀を抜く正成と正季。脇刀をもって目をつぶる正成。

 河内の民とともに土を耕し、種を植え、実った稲を刈り、歌を歌い、酒を酌み交わし、音頭をとって踊る光景が脳裏に浮かんだ。

「兄者どうされました」

 正季が微笑む正成に聞くと、

「ん~。ふるさとの味が懐かしいな」

 正成と正季がお互いに胸をさして果てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る