第23話 反撃の糸口

「奴らは電力網より先にインターネットを潰した。その時点で気付くべきだったわ。奴らは私たちの通信を攻撃目標を定めるための誘導電波にしていたのよ」

 ジョンストン艦長がグランパスと交渉している間、アレックス博士は自室でヘイスティング大佐とともにいた。

「その仮説が正しければ、我々は自ら敵に攻撃対象を知らせていたことになります」

「そうよ、だからこそ攻撃は通信量の多い都市に集中したのよ。どうしてそれに気付かなかったのかしら」

「それが奴らの本能…なのですか」

「そう考えるのが合理的。でも、その背後には奴らの本当の目的がある」

「本当の目的…」

 そう言ってヘイスティングス大佐は唾を一度飲み込んだ。

「私は奴らの本当の目的が生命を根絶やしにすることではなく、文明社会を崩壊させることにあるんじゃないかと考えているわ」

「文明社会を…ですか」

「だってデジタル通信で情報をやり取りできるのは、ある程度進化した高度な文明社会しかできないじゃない。奴らは徹底的にそれを破壊していってる。生命を抹殺することが主たる目的なら、別の方法があるんじゃない?」

「たくさんの人間や動物が死んでいっていますが、まだ地球には大勢の人類が残っています。この全てを絶滅するには、このペースでもかなりの時間が必要です。でも、それに比べて、社会を支えているインフラを破壊するスピードは確かに速いですね」

「そう、早過ぎるのよ。動物の中でも特に人間はどんなことがあっても、かなりの数が生き残れると思う。地球はとてつもなく広いし、人間には知恵があるから、逃げ場所はどうしても残る。でも、文明というレベルでみたら、もうすでに産業革命以前の状態に戻りつつある。高度な産業を支えるサプライチェーンは崩壊してしまい、元に戻すのは並大抵ではない。このままだと、一気に旧石器時代になってしまうことだってあり得るわ。奴らの狙いはほぼ達成されつつある」

 大佐は大きく息を吐いた。

「博士はそれが奴らの本当の狙いだと考えている訳ですね」

「そうよ。奴らは高度な通信を交わしている星を狙ってやって来たのよ。文明を滅ぼすためにね」

「どうしてそんなことを…。一体誰が…」

 ヘイスティングスはそう言って、遠くを見つめた。


「奴らのこの習性、いや本能と言ってもいい、これを利用すれば、相当数のプローブを一カ所に集められるはずです、艦長」

 アレックス博士は艦長室でジョンストンと対面していた。ヘイスティング大佐も同席している。

「どこか、無人島でもいい、ダミーの船でもいい、人のいない砂漠や山の中でもいい、そこにアンテナを設置して衛星に向けて大量の電波を発するのです。そうすれば、奴らはそこに群がってきます。たくさん集めた後に、ミサイルを撃ち込めば、かなりの数を一度に破壊することができます」

「なるほど。1カ所に集められたら、我々の兵器が役に立つという訳ですね」

 ジョンストンは少しだけ口元を緩めた。

「世界全体でデジタル通信を止めることができれば、この作戦はより効果的になります。地球上から誘導電波が消えてしまったら、奴らは迷子です。そこに強力な餌をまいて、おびき寄せるのです」

「やってみる価値のある作戦ですね」

 アレックス博士は頷いたが、表情は今ひとつ冴えなかった。

「それでも、地球全体に拡散したプローブを根絶やしにすることは難しいと思います。でも、奴らの拡散スピードを相当遅らせることができるのは確かです。かなりの時間稼ぎにはなります。やみくもに戦術核を使うよりは遥かにマシです。これは今考えられうる最も効果的な反撃方法と言えるでしょう」

「仰ることは分かりました」

 ジョンストンは椅子から立ち上がった。

「すぐに大統領に進言します。世界各国に協力を呼び掛けてもらいます。一矢報いてやりましょう」

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