第22話 ナノプローブのしっぽ
「艦長、すぐに全艦に命令してください。デジタル通信の禁止を」
ジョンストン艦長は表情を変えずに答えた。その目には若干の疑いが浮かんでいる。
「まずは理由を説明してください」
アレックス博士はひと息ついてから、おもむろに説明を始めた。
「ポセイドンとアトランティスは米国の旗艦なので、あらゆる情報がその艦に集中することになりますね」
「はい、博士。ホワイトハウスと統合軍本部が一緒になったのですから、当然です」
「その通信量は膨大なものですね、アナログの無線では対応できない、違いますか」
「ええ、ですから生き残っている衛星チャンネルを独占的に使えるようにしています」
「独占的に?」
「ええ、大統領の判断には一刻の猶予も許されない場合がありますので、通信に支障が生じることは許されません。通信トラフィックの影響を受けないように、衛星のトランスポンダーを独占的に使用しています」
「確かに現状ではその方法しかないでしょう。でも、その通信が敵をおびき寄せてしまったとしたら…」
博士の問いかけに、ジョンストン艦長は一瞬で顔をこわばらせた。
「どういうことですか」
「2つの潜水艦は衛星通信をするために浅い水深まで浮上して、通信用のアンテナフロートを海面上に放出していたのですね」
「その通りです」
「そのアンテナは昼夜を問わず衛星とかなりの量の通信を交わしていました。その通信が敵を誘導したのだとしたら…」
最早ジョンストンに言葉はなかった。
「ポセイドンとアトランティスは最新鋭の潜水艦でメカニカルなトラブルは考えづらいと聞きました。だとすれば、ナノプローブの攻撃によって沈んだと考えるのが妥当です。では、ナノプローブはなぜこの2つの潜水艦の居所を知ったのでしょうか?」
「それは…大胆な推論ですね」
艦長は絞り出すように言った。
「奴らは衛星とやり取りしているデジタル通信の電波をキャッチして、旗艦のありかを知ったのです。そうした行動は奴らのメカニズムに刻まれているはずです。それは本能と言っても良い」
「二酸化炭素に蚊がおびき寄せられるようなものですね」
「そうです、艦長。そして、居所を突き止めた奴らは海上のアンテナからケーブルを通じて艦内に侵入しました。人間にとっては極細の光ケーブルでも、ナノプローブにとってみたら片側3車線のハイウエーよりも遥かに広いですから」
「大量に衛星通信をしていたのは、広い海上でもポセイドン、そしてアトランティスだけ。そして今はグランパス…」
「その通りです。だからこそ、今すぐ通信を停止するよう旗艦に進言してください。そして、深く潜航することをお奨めします。そうしないとグランパスも同じ運命をたどる可能性があります」
ジョンストン艦長は茫然としていた。
「急ぐべきです。一刻も早く深海へ」
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