第5話 崩壊
この異常事態の核心はジョアンナだ。当然のごとくアレックス博士はそう確信したが、肝心の隕石が消え去ったラボの調べは足止めを食らった。アンドリュース博士の急死の原因が分からないと、人が立ち入ることができないからだ。
死因の究明を最優先任務とされたメディカルチームはすぐにアンドリュースの遺体をMRIで調べることにした。スタッフは厳重な防護服に身を包み、慎重に遺体をMRIに運んだ。
「どういうことだ」
メディカルチームのシュタイナー博士はうめくように漏らし、薄くなった額の辺りに手をやった。眼前のモニターにはアンドリュースの体内の様子が輪切りの状態で示されている。
「脳、心臓、肝臓…主要な臓器に損傷は見当たらない。極めて普通。健康体にみえる」
シュタイナー博士はジョイスティックを操りながら、脳から足先まで何度もスクロールして、死の原因を見出そうとしていた。
「ん?」
スティックを動かすシュタイナーの手が止まった。
「これは…何だ」
シュタイナーが注目したのは、アンドリュースの頸部だった。脊髄内の神経束の周辺に小さな白い点を見つけたのだ。しかし、それは余りにも小さな点で、ノイズと判断しても良いくらいの大きさだった。
「まさかな…」
シュタイナーは再びジョイスティックを動かし、体内の別の部位を詳しく検査し始めた。この小さな見逃しは結果的に極めて重要な意味を持っていたのだが、シュタイナー博士を責めることは誰にもできないだろう。たとえ、この時点で原因にたどり着いていたとしても、対処法があったのかどうか…それを明らかにできる人は地球上には存在していない。
ラボのモニター映像を見直していたアレックス博士は、新たに起こった事態にさらに混乱を募らせた。
「ドアが融ける」
16分割のモニター画面の右隅ではラボの扉が映し出されていた。今、博士の視線はそこに集中している。
ドアはほんの十数分前から、崩れ始めていた。崩れるという表現は適切ではないかもしれない。ジョアンナを収めていたチタンの箱と同じく、小さな穴が無数に空き始め、今や虫食い状態となり、扉そのものが機能を失っているのだった。小さな金属片がぽろぽろと落ち、金属性の頑丈な扉が綻んでいく。ドアの機能を完全に失うのに1時間は必要ないだろう。
何度も確認した監視カメラの録画映像も同じ状況だった。ジョアンナを収めた容器やステンレス製の台も小さな穴が次々と空いて短時間で崩れ落ちていっていた。まるで目に見えない何者かが金属を食い破っているかのようだった。
「このままだと…」
アレックス博士の背筋に冷たいものが流れた気がした。
「ヘイスティング大佐を呼んで、今すぐ」
博士は隣の助手に叫んだ。
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