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『ずっと一緒にいられると思っていた』
スーパームーンの夜だった。ヴラディミーラはどこかの公衆電話から、わたしの番号にかけてきた。
『認めよう。我は寂しかった。家に居場所がなかった。いや、ないものと思い込んでしまった。取るに足らん理由じゃ。我が九歳のとき、腹違いの弟ができた。跡取りができたというので、両親のかわいがりようといったらなかった。我は両親の関心をすべて弟に奪われたように感じた』
『お師匠様は館に迷い込んだ我を優しく受け入れてくれた。苦学されたんじゃろう。拙い日本語じゃったが、我らが心を通じ合わせるには十分じゃった。お師匠様はずっと一緒にいてくれると言った。我もそれを信じた。故に、我は吸血鬼になることを受け入れた』
『お師匠様は教えてくれなかった。吸血鬼は死ぬということを』
『想像できるか、いむる。半世紀以上もの間、誰とも交わらずに生きていくことを。ラジオや文献を介してしか他人とかかわることができない孤独を』
『恨みもした。憎みもした。しかし、それ以上に寂しかった。もう一度お師匠様に会って騙したことを責めたかった。詰りたかった。償いとして一生そばにいることを誓わせたかった』
『もちろん、そんな願いは叶わなかった』
『何もかも壊してしまいたくなる夜もあった。書斎に火を放ち、自らも太陽の光によって焼かれることを夢想する夜が。しかし、できなかった。一族が脈々と受け継いできた記憶を、言葉を自分の代で断ち切る。その行為の重さを我は受け止めることができなかった』
『臆病者と嗤うがよい。けっきょく、我が選んだのは、時の流れに身をゆだねることじゃった』
『我は決めた。誰かがねぐらに迷い込んできたときは脅かして追い返してやろうと。そうれば、我は後継者を得ることなく消滅することになるじゃろう。もう誰にもこんな思いをさせずにすむ。こんな寂しい思いをさせずに』
『あの夜、汝はそのまま逃げ帰っていればよかったんじゃ。そうすれば、こんなに迷うことはなかった。こんなに心を揺り動かされることはなかった。馬鹿者め。どうせすぐ別れるとわかっているのにどうして我に近づいた? どうして吸血鬼になりたいなどと思った?』
『我のことはほどなく忘れるはずじゃ。家に帰れ、いむる。汝には帰る場所がある。帰って、汝の人生を歩め』
そして、電話は切られた。
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