第二十二章 回想する殺人鬼
私は、今から死刑台に登ります。
私は、五人の人を殺した罪で裁かれるのでございます。
世間では、私の事を『悪女』や『鬼』など申します。
私自身、自分の犯した罪の事を思うと、身体が震える程、恐ろしいと思います。
今……こうして、冷静に考えると、何故、あんな恐ろしい事をしてしまったのかと、ただ後悔と、被害者の方々への懺悔で、いっぱいでございます。
私は、雪の多い所で生まれました。
雪が多い上に、集落という小さな村でしたので、まぁ、いろいろと決まり事や習慣というものがございました。
私が一番、頭を悩ませたのは、『夜這い』でございます。
村の男が夜中になると、こっそり家に押し入り、寝ている娘と身体を重ね合う……この村からしてみれば、そんな事は、たいした事ではなく、当たり前の事だったのです。
でも、私は、それが嫌で嫌でなりませんでした。
好きでもない男と、何故、交わらなくてはいけないのか…理解に苦しみます。
そして、もう一つは、この村に生まれた者は、村から出てはいけない…という決まり事です。
村で生まれた者は、みな村で生まれた同士で結婚をする……けれども、小さな小さな村でございますから、血縁の者が多いのでございます。
血の繋がりが濃い者同士が結婚して子を産めば、そりゃあ、まともな子供は産まれません。
頭のおかしい者や身体的に問題のある子も沢山、産まれました。
そういう子供は、みんな、こっそり『闇』に葬るのでございます。
私も、誰とも知らぬ子供を二人産みました。
一人は、まともな子供でしたが、もう一人は、それは……もう言葉では表せない程の姿で産まれました。
「こんな子供は見た事がない。恐ろしい……。悪魔の子じゃ。悪魔の子供を産んだ鬼じゃ!」
村人達は、私と子供を『鬼』『悪魔』と呼び、恐れました。
子供は、すぐに『闇』に葬られましたが、それからというもの、私は、村人達から避けられるようになりました。
あれ程、寄ってきた男達も見向きもしません。
でも、一人だけ、私を気にかけてくれる優しい人がおりました。
村に住む、佐吉という男です。
佐吉と私は、幼なじみで、幼い頃から仲良く遊んでおりました。
佐吉は、私の家に来ては、町へ行商に行った時の話をしてくれたり、町で買った菓子やかんざしなどを、お土産に買ってきてくれました。
そのうち、私達は、良い仲になり、私は、佐吉の子供を身ごもりました。
そして、産まれてきた子供は、あの時と同じ『化け物』だったのです。
佐吉は、驚いてはいましたが、こんな村だから、しょうがないと慰めてくれました。
私は、佐吉の優しさに、彼を心から信じておりました。
それから、しばらくして、前に産んだ子供が居なくなりました。
佐吉は、言います。
「あんな誰の子かも分からねぇ子供は、神様の元へ返した。」と。
私は、悲しかったけれど、それ以上に佐吉を愛しておりましたので、仕方ないと諦めました。
それから、何度も私は、佐吉の子供を身ごもりましたが、みな『鬼』や『化け物』の姿で、『闇』へと葬る事になったのです。
あまりにも、変な子供ばかり産まれるものだから、次第に佐吉は、不気味に感じ始め、
「化け物ばかり産まれるのは、お前が人間じゃないからだ!お前が化け物だからだ!」
と私に怒鳴り、冷たくなりました。
それでも、私は、佐吉に捨てられないように耐えてきました。
でもね…あの人、他に好きな人がいたのですよ。
私とは違う女との間にも、子供がいましてね。
まぁ、可愛らしい女の子でした。
それを知って、私の我慢の糸がプツリと切れたのです。
気がついたら、佐吉と女、そして、女の子まで、私は、殺していたのです。
その死体は、原型を留めておらず、真っ赤な肉の塊でございました。
そういう事で、私は、死刑になったのでございます。
でもね、ちっとも、怖くありません。
やっと、あの村から解放されるのかと思えば、何というか、晴れ晴れとした気持ちでございます。
何故、私が『化け物』ばかり産んだのか……いいえ、今思えば、あれは『化け物』ではありません。
あれは、ちゃんとした人間だったのです。
例え、姿、形が歪であれ、人だったのです。
その人である者を殺した私こそが『化け物』だったのです。
化け物は今、地獄へ帰ります。
今度は、まともな人間に産まれてこよう。
そして、あの村には、二度と産まれてこないようにしよう。
そう……全ては、あの村に住む村人達、村で行われていた狂った習慣が悪いのです。
あの村は、葬らなければなりません。
あっ……申し遅れました。
私……香代(かよ)と申します。
私のくだらない話に、お付き合い頂き、ありがとうございます。
では、みなさま……ごきげんよう。
香代が刑に処された二日後、とある集落で火事が起こり、村を全焼し、そこに住む村人達も焼け死んだ。
その村に住む人々は、みな頭のおかしな人間ばかりで、異様な姿をしていた。
その村の事をみなは、『異形の村』と呼んでいた。
ー第二十二章 回想する殺人鬼【完】ー
殺人鬼は微笑む こた神さま @kotakami
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