第二十一章 想像力豊かな殺人鬼
昔、人は月の明かりで、夜道を歩いた。
やがて、火を灯し、提灯を下げ、そして、電気を発明し、街灯が出来た。
暗い場所が少ないぐらい、街は明るい。
夜道も怖くない。
昔、人は自分の足で歩き、山を越えていた。
やがて、籠屋が出来て、車が出来て、そして、空を飛ぶ飛行機が出来た。
行けない場所はないぐらい、何処でも行ける。
外国にだって行けるんだ。
昔、人は口伝えで用件を伝えた。
やがて、手紙を書くようになり、そして、公衆電話が出来て、固定電話も出来た。
スマホも出来た今、電話をしなくてもLINEで、やり取りが出来る。
人と話す必要もない。
誰かが言ってたっけ?
人間が想像出来るものは、実現出来るのだと。
今、人は、コンピューターやロボットを開発し、仕事の範囲も広まった。
何れ、ロボットが人間を支配する日が来るかもしれない。
僕は、いろいろ想像するのが好きだ。
こうだったらいいな〜ああだったらいいな〜。
想像するのは、楽しい。
毎日、遊びに行く公園で、僕は、一人のお爺さんと知り合った。
お爺さんは、僕の話をニコニコと笑いながら、聞いてくれる。
僕がいつものように、想像力を膨らませ、お爺さんに話すと、お爺さんは、ポツリと、こう呟いた。
「世の中、便利な時代になって、何不自由なく生活出来るようになった。じゃが、その代わり、人は、心をなくしてしまった。」
「心……?」
じっと見つめる僕に、お爺さんは、優しく微笑むと頷いた。
「そうじゃ、心じゃ。昔は、みんな助け合って生きていた。そりゃあ、貧乏人は多かったが困っている人がいたら、手を差し伸べて協力し合って、生きてきたんじゃ。金が無くても、それなりに楽しく暮らしていたんだよ。」
「ふ〜ん……。」
昔の話を聞いても、僕には分からないや。
「便利になったが、嫌な時代だな〜。」
そう呟いたお爺さんは、何故か寂しそうだった。
「これから、ますます便利になっていき、そして、人は、ますます冷たくなっていくんだろうな。嫌な時代になって、住みにくくなるわい。」
そこまで言うと、お爺さんは、あっはっはと声を上げて笑った。
可哀想な、お爺さん。
こんなに世の中、便利になって、何不自由ないのに、お爺さんには、嫌な時代なんだ。
住みにくい時代なんだ。
お爺さんを助けてあげたいな。
もう、お爺さんが寂しい思いをしないように、嫌な気持ちにならないようにしたいな。
だって、僕は、お爺さんが大好きなんだもの。
僕は、静かに立ち上がると、公園の隅にあった少し大きめの石を手に持った。
そして、ベンチに座る、お爺さんの後ろに立った。
「僕が、もう寂しくないようにしてあげる。」
「んーっ……?」
後ろを振り向こうとした、お爺さんの頭を持っていた石で力強く殴った。
お爺さんは、低く呻き声を上げると、口から白い泡をブクブクと吹き出した。
「これから、だんだん便利になっていき、医学も発達して、歳を取らない薬が出来たら、お爺さん、もっと寂しくなるでしょ?そんなの可哀想だもの。」
僕は、石を投げ捨て、公園を出ながら、フッと考えた。
「あっ……!若返りの薬を作れば、お爺さん、若くなれたかも……?まっ、いいか。想像するのって、楽しいな〜。」
ー第二十一章 想像力豊かな殺人鬼【完】ー
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