第十九章 殺人鬼の住む団地




私の住む団地は、独り暮らしが多い。

この団地に住むようになって、もう10年以上になる。

最初は、不思議だった。

独身が住むような団地でもないし、各部屋、なかなかの広さを持つ部屋。

確かに、最初は、みんな家族がいたはずなのに、いつの間にか独り暮らしになっているのだ。

かくいう私にも、夫と子供が二人いた。

最初に居なくなったのは、夫だった。

夫は、長年サラリーマンで真面目だけが取り柄の人だったが、ある日突然、リストラされ、無職になった。

無職になった夫は、再就職をするどころか、毎日、家でゴロゴロ。

私が文句を言えば「うるさい!俺は、今まで家族の為に一生懸命、働いてきたんだ!俺の稼ぎで楽してたのに文句ばかり言うな!!」と怒鳴り、気に入らないと、外へ出てベロンベロンになるまで飲んでくる。

最初は、リストラされた夫を励ましたり、同情したりと、私も我慢をしていた。

しかし、そんな日が何ヶ月も続くと、さすがに私も嫌気がさした。

だからね、消えてもらったのよ。


次は、保育園に通う長女。

夫が居なくなり、仕方ないから、仕事に出たのだけれど、朝から晩まで働いて疲れているのに、長女は、わがままばかり。

叱ると大声で泣くし、泣きたいのは、こっちの方だっての。

だから、長女も消えてもらったの。


まだ生後5ヶ月の息子は、そこまで手がかからないだろうと思っていたのに、夜泣きはするし、身体が弱くて病気ばかりするし、本当、疲れちゃう。

それで、息子にも消えてもらったの。


ゴミ出しの日に、息子の遺体をゴミ袋に入れて、こっそり出そうとしたら、偶然、隣の奥さんに見つかってしまってね。

あっ……ヤバいかな……と思ったけれど、私の様子に、奥さん、にっこりと笑って、こう言ったの。

「良かったじゃない。これで、あなたも自由ね。」

その時、私、気付いたのよね。

何故、この団地に独り暮らしが多いのか。

そう言う事だったんだって。

でも、それを知ったからって、この団地で何かを言う人なんて、一人もいないの。

「だってね……。」







「みんなで殺(や)れば、怖くないって言うでしょ?」







ー第十九章 殺人鬼の住む団地【完】ー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る