第十八章 悲しき殺人鬼




20年前。私は、家族を殺された。

当時12歳だった私は、いつものように学校から帰宅した。

玄関のドアは、鍵が掛けられておらず、家の中は、薄暗くて、シーンと静まり返っていた。

家の中に入ると、キッチンで母親が血まみれで倒れていた。

私は、驚き、家中を走り回り、家族を探した。

祖母の部屋では、祖母が電気コードで首を絞められ息絶えていた。

2階へと階段を駆け上ると、2階の廊下で、5歳年下の妹を庇うように父親が滅多刺しにされ、その下で、妹が顔面に包丁が突き刺さったまま、死んでいた。

私は、狂ったように声を上げ、転がるように階段をおり、玄関へ向かった。

玄関のドアを開け、私は叫んだ。

「誰か助けてー!!助けてよー!!」




犯人は、すぐに捕まった。父親の会社に元勤めていた豊川という男だった。

豊川は、少し精神に問題があり、何かと大変だったが身寄りのない豊川に父親は、優しく丁寧に接していた。

その豊川が突然、奇声を発し暴れ、私の家族を殺したのだ。

豊川は、精神状態が不安定だったという理由で、無罪になった。

無罪……?

私の家族を奪い、私から全てを奪った男が無罪だと?

『……許さない!!』

私は、いつの日か必ず復讐する事を心に誓った。




あれから20年の月日が経った。

20年の月日が流れても、私の心が癒される事も、豊川に対しての怒りがおさまる事もなかった。

そして今日。豊川が精神病院から一時退院する事を知った。

私は、この時を待っていたのだ。


私は、精神病院の前で、豊川が出て来るのを待った。

何食わぬ顔で、豊川は、病院から出て来た。

私は、豊川の前に駆け寄り、彼をキッと、きつく睨んだ。

豊川は、ニヤニヤと笑いながら、私を見返した。

「豊川……。法が許しても、私は、お前を許さない!」

私が言うと、豊川は、更に楽しそうに笑みを浮かべた。

「あー?なんだ?お前……。あっ!あの家の生き残りのガキかー?」

私は、怒りに身体が震えるのを押さえ、豊川に尋ねた。

「どうして、私の家族を殺したんだ?」

すると、豊川は、フッと口元に笑みを浮かべ、こう応えた。

「理由なんてあるか……殺したいから殺したんだよ。」

そう言った豊川の顔は、精神に異状をきたしている顔じゃなかった。

その顔は、普通に、まともな人間の顔だった。

私は、怒りが抑え切れず、カバンからナイフを取り出すと、豊川の身体に馬乗りになり、滅多刺しにした。

豊川が息絶えた後も、何度も何度も……。




私は、駆けつけた警察官に、すぐに現行犯逮捕された。

「何故、豊川を殺したんだね?」

取り調べの刑事の言葉を私は、ぼんやりと聞いていた。

刑事は、大きな溜息をつく。

「こんな事をしても、殺された家族は喜ばんだろう。それに、これじゃ、君も豊川と同じじゃないか。」

黙って刑事の話を聞いていたが、私は、静かに口を開いた。

「刑事さん。あんな奴、生かしていて何になるんです?あいつはね……頭のおかしなフリをしてるだけだったんですよ。私には、それが分かったんです。」

刑事は、うーんと唸る。

「しかしだね……。」

何かを言おうとした刑事の言葉を私は止め、こう言った。

「刑事さん。……世の中、不平等だと思いませんか?」

刑事は、俺の顔をじっと見つめる。

「だってね……。」








「あんな極悪人でも、殺されれば被害者になるんです。納得いきませんよね?」







ー第十八章 悲しき殺人鬼【完】ー

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