第十七章 蝋人形の館に住む殺人鬼
クラスで美人の菜々(なな)が行方不明になった。
最近、この辺りで行方不明の人が続出していた。
それも、男女問わず、美しい若者ばかりだ。
私は、学校でオカルト倶楽部に入部していた。
そのオカルト倶楽部の部員の間で、ある噂が囁かれていた。
学校の近くに、ある資産家の住む大きな屋敷がある。
その屋敷の主人は、蝋人形を作るのが趣味で、何体もの蝋人形と一緒に生活しているらしい。
その蝋人形は、どれもリアルで美しく、そのうちに、その屋敷の主人が美しい若者をさらい、殺害し、蝋人形を作っているのだとか。
まぁ、あくまでも噂であり、その屋敷が蝋人形の館なのかどうかも、誰も知らない。
「夏希(なつき)くん、あの屋敷を調べに行かないか?」
オカルト倶楽部の部長をつとめる穂(みのる)がそう言ってきた。
「調べるって言っても、あの屋敷には、誰か住んでいるのでしょ?勝手に調べる事なんて出来ないでしょ。」
「30代の男が一人で暮らしているらしいんだけどね。ほとんど、家にいないらしいんだ。」
目をキラキラと輝かせ、穂は言う。
「だけど、住居侵入罪に問われない?」
「大丈夫さ。窓の外から、ちょっと覗く程度なら、問題ないさ。」
私は、あまり乗る気じゃなかったけれど、穂がしつこく言うものだから、渋々、その屋敷へ行く事になった。
放課後。私は穂と二人で屋敷へと向かった。高々と伸びる大きな鉄の扉を見上げる私に、穂は、言った。
「夏希くん、こっちだよ。裏庭の扉が鍵が掛かってない。そこから、中に入れるから。」
そう言って、裏庭の方に向かう穂の後を私は追った。
「どうして、裏庭の扉が開いてると知ってるの?」
「一度、ここへ来て確かめたんだ。」
「フーン……。何だか、気味が悪い所ね。」
ギギギーと妙な音を立て、扉は開いた。
私達は、周りに人がいないのを確かめ、中に入った。
屋敷は、かなり広く、私達は、一つの窓に近付き、そっと中を覗いた。
大きな暖炉があり、炎が妖しく揺らめき、その暖炉の前に、揺り椅子に座った人影が見え、私は思わず、身を隠した。
「人がいるわ。」
小声で私が言うと、穂は、中を見つめたまま、こう言った。
「よく見てごらん。あれは、蝋人形だよ。」
私は、再び中を覗いた。
本当だ。よく出来た蝋人形である。
しばらく、中の様子を見ていると、後ろから声を掛けられ、私達は、ビクッと身体を震わせた。
「何をしているんだい?」
震える瞳で振り返ると、そこには、一人の男が立っていた。
男は、30代の若くてスラリとした身体に、美しい顔をしていた。
「あ、あのう、私達、蝋人形に興味があって……。」
咄嗟に私は、そう言った。男は、少し眉を寄せ、私達を見ていたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。
「そうなんだね。それじゃあ、中に入って、見てみるかい?」
「いいんですか?!」
驚いた声を出した私に、男は、黙って頷いた。
屋敷の中には、至る所に蝋人形が飾られていた。
男女問わず、並べられた蝋人形達は、どれも美しかった。
「よく出来てますね。まるで、本物の人間みたい。」
「夜になると、お話をしてくれるんだよ。」
「えっ?」
「フフフ……冗談さ。」
男は、クスクスと笑い、私も、口元に笑みを浮かべた。
「最近手に入れた蝋人形があるのだけれど、見てみるかい?」
「ええ。」
男は、私達を地下へと案内してくれた。
地下室に入ると、中に一体の蝋人形が立っていた。
「菜々くん!?」
蝋人形を見た途端、穂がそう声を上げた。
穂の言う通り、行方不明になっている菜々に似ている。
男は、蝋人形の前に立つと、うっとりとした目で、蝋人形を見つめる。
「そうか……。君は、菜々というんだね。菜々、今日も綺麗だね。君が毎日、寂しい寂しいと泣くものだから、今日は、お友達を連れて来たよ。これで、もう寂しくないだろ?」
私達は、男の言葉に、全身に震えが走った。
慌てて穂が地下室のドアに向かい、ノブを掴み、悲鳴を上げて倒れた。
「そのドアには、電流が流れているんだよ。」
「私達をどうするつもり?!」
近付いてくる男から、後退りながら、私は、怒鳴る。
「言っただろ?菜々が寂しいと泣くのだよ。だから、君達も、ここで蝋人形になるのさ。」
男は、両手を伸ばし、私に近付いて来る。
男の手が私の首に伸びてきて、その後の記憶はない。
私は、蝋人形。
今日も、この窓から、楽しげに学校へ通う高校生達を見ている。
みんな自由に歩き、笑い、とても楽しそう。
だけどね、ちっとも寂しくないの。
だって、私には、沢山の友達がここに居るから。
夜になると、みんなとお茶会を開き、お喋りをするのよ。
素敵な夜会を開くのよ。
ねぇ……。
「あなたも、蝋人形になってみない?私とお友達になりましょうよ。」
ー第十七章 蝋人形の館に住む殺人鬼【完】ー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます