第十四章 素直な殺人鬼




私は、図書館で一人の少女と出会った。

少女は、小学六年生の、まだ、あどけなさが残った可愛い顔をしていた。

まるで、少女漫画から抜け出してきたようなキラキラと輝く大きな瞳、ピンクの頬、ふっくらと柔らかそうな唇。

私は、少女に一目惚れをしてしまった。

少女は、いつも一人で図書館にいた。

窓際の席に座り、一人で本を読んでいる。

私は、勇気を出して、少女に声を掛けた。

「本が好きなのかい?」

私の声に一瞬、驚いた顔をしたが少女は、すぐに明るく微笑み、私をじっと見た。

「おじさま……いつも私の事を見てるでしょ?もしかして、おじさま、私の事が……好きなの?」

まだ幼さの残った顔からは、想像も出来ぬ程、少女は、大人びた口調で、そう言った。

私は、変に嘘をつくのも何だと思い、素直に、こう応えた。

「好きだよ。」

「フ〜ン……どのくらい?」

「そうだな……。」

私は、少し考えて、こう言った。

「食べちゃいたいくらい。」

それを聞き、少女は、クスクスと声を立て笑った。

「おじさまって……面白い人ね。」




私と少女は、すぐに仲良くなった。

少女は、とても素直で、本当に可愛らしい子だった。

私は、少女を独り占めしたくなった。

誰にも渡したくない。この子は、私のものだ。

「君は、私の事をどう思う?」

私が聞くと、少女は、にっこりと笑い応えた。

「そうね……。嫌いじゃないわよ。」

「嫌いじゃないとは、好きだって事かな?」

「そうよ。」

「だったら、好きだと言ってくれないか?私の事を好きだって。」

そう言った私に、少女は、片手を口元に持ってゆき、フフフと笑った。

「好きだっていう言葉は、そんなに簡単に言う言葉じゃないのよ。」

ああ……ダメだ。この子は、男をダメにするタイプだ。

こんなに幼い頃から、人の心を掴むコツを知っている。

このまま、この子が大人になれば、ダメな男が増えてしまう。

この子は、魔性の子だ。



私は、少女に家に来ないか?と誘った。

少女は、何の躊躇いもなく、家へ行くと言った。

私は、少女を家に連れて帰ると、少女を居間へ連れて行く。

「おじさま?」

「んっ?何だい?」

少女は、私の方を見ると、上目遣いで見つめる。

「私を殺す気でしょ?」

「えっ……?」

私は、眉を寄せ少女を見た。

少女は、私の心が読めるようだ。

こんな子に、嘘は通用しない。

私は、素直に応えた。

「そうだよ。君を殺して、私だけのものにするんだ。」

「そうなんだ……やっぱりね。三年前にも同じ事を言って、私を殺したわよね?」

「何……だって?三年前だと?」

少女は、長い髪を両手でかきあげ、首元を見せた。

少女の首には、赤黒い手の跡が残っている。

「忘れたの?おじさま?ほら、私の首を絞めて殺したじゃない。」

「ああ……!!」

私は、思い出した。

何故、忘れていたのだろう?

愛しさのあまり殺してしまった罪悪感からだろうか?

少女は、優しく微笑みながら、私に近付いてくる。

「あの図書館で、おじさまの事を待っていたのよ。あの日のように。一人は寂しいわ。おじさま、一緒に来て……。」

両手を伸ばし、そう言った少女に、私は、寂しく笑った。

「ごめんよ、忘れてしまって。そうだね……一緒にいよう。これからは、ずっと……。」

私は、少女の手を取った。

その瞬間、私の身体は、窓の方に飛んで行き、一瞬、大空を舞ったかと思うと、思いきり地面に叩きつけられた。

「やっと、一つになれるね……。」

息も絶え絶えに、そう言った私を冷たく見下ろす少女。

「私……ずっと、待ってたのよ。」









「あなたに復讐する為に。」







ー第十四章 素直な殺人鬼【完】ー

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