第十二章 思いやりのある殺人鬼




私の名前は、璃奈(りな)。小学二年生。

私の、お父さんは、仕事の関係上、あちこちと転勤する。

その度に、私達は引っ越して、学校も何度も変わり、友達なんて作る事が出来なかった。

学校では何人かクラスメイトと話すけれど、登下校時は、一人だ。


ある日。いつものように学校から帰っていると、一人の知らないおじさんに声を掛けられた。

「お嬢ちゃん、いつも一人で帰っているね〜。おじさんがお家まで送ってあげるよ〜。」

気持ち悪い声で、ニヤニヤしながら言うおじさんを少し気味悪く思い、私は、思いきり走り逃げようとした。

おじさんは、私の後を走って追いかけてくる。

『怖い!怖い!助けて……ママ!!』

曲がり角を曲がった所で、私は、人にぶつかり、アスファルトの上に尻もちをついた。

ぶつかったのは、若い知らないお兄さんだった。

「大丈夫?怪我はない?」

優しく声を掛けてきたお兄さんに、私は、泣きながらしがみついた。

「お兄さん!助けて!変なおじさんに追いかけられてるの!」

私が泣き叫びながら、そう言うと、お兄さんは、私の後を追い、曲がり角を曲がってきたおじさんに、怒鳴るように言った。

「おいっ!!」

「な、何だよ!?」

お兄さんに胸元を掴まれ、おじさんは、驚いたように声を上げた。

「この子に、何の用だ!?」

お兄さんが怒鳴ると、おじさんは、少しオドオドとした様子で、こう言った。

「私は……ここを見回っている巡回の者だ!この子がいつも一人で帰っているから、危ないと思って声を掛けたんだ……!」

お兄さんに、強く胸元を掴まれ、苦しそうに、おじさんは言った。

「嘘をつけ!この子は、こんなにも怯えているじゃないか!」

お兄さんは、そう言うと、おじさんの頬を殴った。

おじさんは、悲鳴を上げ、地面を這うように、逃げて行った。

「もう、大丈夫だよ。」

お兄さんは、私の方を見ると、優しく微笑んだ。

素敵なお兄さん。

「お家は何処?お兄さんが送ってあげる。」

「うん。」

小さく頷いた私の手をお兄さんは、優しく握ってくれた。


しばらく歩いていると、お兄さんが静かに口を開いた。

「いい歳したおっさんが、何を考えているのか……。怖かっただろ?」

私は、黙ったまま頷いた。

「そりゃあ、怖いよね……。知らない人には、絶対ついて行っては駄目だよ。この辺は、不審者が多いし、君みたいな可愛い子は狙われてしまうからね。」

お兄さんの言葉を聞いて、私は、怖くて繋いだお兄さんの手をギュッと強く握った。

「ほんとに気をつけてね。……でも、良かった。」

「お兄さん、ありがとう。」

私がお礼を言うと、お兄さんは、とても優しい微笑みを浮かべ、首を横に振った。

「本当に、良かった。あんな親父に先をこされなくて。」

「えっ……?」

眉を寄せ見上げる私に、お兄さんは言う。

「君だって、良かったと思うでしょ?あんな親父より、やっぱり…………。」







「若いお兄さんの方がいいよね?」

いつの間にか、お兄さんの手には、ナイフが握られていた。







ー第十二章 思いやりのある殺人鬼【完】ー

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