第十一章 懺悔する殺人鬼




ここに、一人の死刑囚がいる。

この男は、若い女性ばかりを狙い、強姦、強盗殺人を繰り返し、刑務所に服役していた。

判決は死刑。

刑務所の独房で、男は、毎晩、うなされていた。

被害者の女性の一人が毎晩、男の枕元に現れ、恨めしそうに見つめるのだ。

そんな日が何年も続き、男は、精神的に参っていた。

毎日、刑務所内の仕事を終え、時間があれば、いつも被害者の女性達に手を合わせ、詫びていた。

男は、自分の犯した過ちを後悔していた。


そして、今日、男は、死刑執行される。

死刑になる前に、教誨室へと向かい、そこで最期の一時間を過ごす。

教誨室には、教誨師がおり、そこで祈りを捧げたり、お茶を飲んだり菓子を食べたり、一服をする事も出来る。

やっと、自分の罪から解放される。被害者の霊に悩まされる事もない。

今から、死刑になり死ぬというのに、男の心は、何故か晴れ晴れとしていた。

『やっと、全ての事から解放されるんだ。』

そんな気持ちが男の表情に表れていたのか、教誨師が声を掛けてきた。

「何だか、スッキリした顔をされていますね?」

教誨師の言葉に、男は、軽く口元に笑みを浮かべ、こう言った。

「ええ……。私は、ずっと被害者の女性の霊に怯えていたのです。『何故、私を殺したのか?』……まるで、そう言ってるように、毎晩、私の枕元に立ち、見つめるのです。それも、今日で、やっと解放されます。本当に……申し訳ない事をしてしまった。私は、大馬鹿者です。今度、生まれ変わる時は、真人間になって生まれてきます。」

教誨師は、男の話を黙って聞いていた。

「そうですか……。なるほど……。確かに、あなたの側に一人の女性がいる。」

教誨師の言葉に、男は、驚いたように声を上げた。

「教誨師さまには、見えるのですか!?」

「見えますよ。歳の頃は、24歳。白いワンピースをきた髪の長い女性です。彼女には、結婚する相手がいました。彼女は、結婚をとても楽しみにしていた。その幸せをあなたは奪ったのです。恨まれても、当然というべきでしょう。」

「そんな事まで分かるのですか!?」

更に、驚いた顔をした男に、教誨師は、蝋燭立てを手に取り、優しく言った。

「そりゃあ……分かりますよ。だってね…私がその婚約者なのですから。」

そこまで言うと、教誨師は、蝋燭立てで男の首元を刺した。

「絞首刑なんて……軽過ぎでしょ。」

倒れた男を冷たく見下ろし、教誨師は、部屋のドアを開け、もう一度、男の方を見た。







「アーメン。」

その言葉と共に、ドアの閉まる音が響いた。




教誨室のドアを開け、教誨師が入ってきた。中で血を流し倒れている男を見て、一瞬、驚いたような顔をしたが静かに、息をつくと、教誨師は、一言、呟き、そっと、ドアを閉めた。






「アーメン。」








ー第十一章 懺悔する殺人鬼【完】ー



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