第十章 ある殺人鬼




私の名前は、瑠美(瑠美)。

私には、結婚して三年目の夫、雅樹(まさき)がいる。

雅樹は、とても優しくて思いやりのある人だ。

困ってる人を助けたり、人の相談に乗ってあげたり、私は、そんな雅樹を愛していた。

しかし、ある日、私は、雅樹の秘密を知ってしまった。


最近、近所で殺人事件が続けて起こっていた。

老若男女問わず、無差別に殺している。

犯人は、なかなか逮捕されず、安心して外も歩けないね……なんて、雅樹と話していた。

雅樹は、仕事が忙しく、残業の日が続いていたが、昨日、雅樹の着ていたワイシャツを洗濯しようとしたら、何か赤いものが飛び散ったようなシミが出来ていた。

何だろう?と、その時は気にしていなかったが深夜、トイレに起きた私は、床に置いてある雅樹が仕事の時に持ち歩いているカバンに足が当たり、倒してしまった。

その拍子に、カバンの中から、ナイフが出てきて、私は、震える手で、それを拾い上げた。

それには、ベッタリと血のようなものがついていた。

私は、フッと、テレビで流れていたニュースを思い出した。

被害者は、みんな鋭利な刃物で切りつけられ、死んでいたのだ。

しかも、殺された時間は、午後10時から11時。

雅樹が残業で仕事から帰ってくる時間は、10時半。

まさか……!?

私は、慌てて、ナイフを机の引き出しに隠した。


翌朝。キッチンで朝食の準備をしていた私の元に、起きたばかりの雅樹がパジャマ姿で、寝室から出てきた。

「おはよう。」

何事もなかったかのように、そう言った私に、雅樹は、深刻な面持ちで、こう言った。

「話があるんだ、瑠美。」

「話なら、仕事から帰ってきてから聞くわよ。さぁ、早く朝食を食べないと、遅刻しちゃうわよ。」

明るく笑って言う私に、雅樹は、真剣な顔で言う。

「今、聞いて欲しいんだ。大事な話なんだ。とても。」

「あっ……。うん、分かった。」

私は、朝食を作る手を止め、雅樹の座るテーブルの向かい側に腰を下ろした。

「瑠美……。俺のカバンの中に入っていたナイフ、どこにやったの?」

「えっ……?ナイフ?ナイフなんて、知らないわよ。」

とぼけた感じで私は、言ったが雅樹のあまりにも真剣な眼差しに、一瞬、口を閉ざした。

「昨夜……見つけたのよ。あなたのカバンの中から、血のついたナイフが出てきて……ワイシャツにも、赤いシミがついてたわ。」

「あのナイフは……昨夜、公園で拾ったんだ。」

「……もう、いいのよ、雅樹。嘘をつかないで……。私、覚悟は出来てる。」

私の言葉に、雅樹は、重い溜息をついた。

「……ごめん。俺、病気かもしれない。いつも、人を殺したいという気持ちが押さえきれないんだ。」

私は、立ち上がり、机の引き出しからナイフを取り出した。

「……これで、人を殺していたのね?」

「ああ……。俺……自首するよ。」

そう言って立ち上がった雅樹の前に立ち、私は、こう言った。

「自首……?困るわ、そんな事……。」

「しかし……。俺自身も、もう……耐えられない!これ以上、罪を犯したくないし、お前にも迷惑は、かけられない!」

頭を抱え、そう言った雅樹に、私は、口元に笑みを浮かべた。

「違うの、雅樹……。あなたが自首したら、私も、捕まっちゃうわ。」

「えっ……?」

眉を寄せ見つめる雅樹の胸元に、ナイフを深く突き刺す私。

崩れるように、床に倒れた雅樹を見つめ、私は、ニヤリと笑った。

「だって、私も……。」








「連続殺人犯なんですもの。」







ー第十章 ある殺人鬼【完】ー

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