第八章 繰り返す殺人鬼




三年前、私は、過ちを犯した。

私には、友希(ゆき)という妻がいた。

友希は、高校の時の同級生だった。

誰にでも優しく、いつも明るい友希に、私は一目惚れして、高校卒業の時に告白した。

友希も私の事を好きだと言ってくれた。

大学も友希と同じ大学に通い、私達は、大学を卒業して結婚した。

最初は、兎に角、必死に働いた。友希の為に、幸せな家庭を作る為に。

朝から夜遅くまで、真面目に働き続けたのだ。

なのに、友希は、私を裏切った。

私が我武者羅に働いてる間、友希は、私以外の男と過ごしていたのだ。つまり、浮気である。

浮気を問い詰め、友希を怒鳴りたい気持ちはあったが、そうする事によって、友希を失う事が怖かった。

私は、見て見ぬふりをして、更に、必死に働いた。

だが、それがいけなかった。

友希は、浮気をやめるどころか更に、深く男と付き合いだしたのだ。

そして、三年前。友希が私と別れたいと言いだした。

理由は、寂しかったから。

友希の為、幸せな家庭の為、必死に働いてきた私だったが、それが友希を寂しくさせていたのだ。

仕事も大事だが、もっと友希の側にいて、優しくすれば良かった。友希の寂しい気持ちを分かってあげるべきだった。

後悔しても、もう遅い。友希は、もう私を見てはいないのだから。

こんなに愛しているのに……友希の事だけを想って頑張ってきたのに……全てが無駄に終わる。


気が付いたら、私は、友希を殺していた。

両手で友希の細い首を絞めていた。

こんな事、私は望んでいない。

ずっと、友希と幸せに暮らす事だけを考えていたのに。

違う……こんなんじゃない。


これは、きっと夢なのだ。


冷たくなった友希を庭に埋めた。

友希が大好きな向日葵の咲く庭。

そう友希は、向日葵のように、暖かく優しい人だった。

ああ……友希、愛している。




それから、三年の月日が流れたが、友希は、相変わらず、私の横で優しく微笑んでいる。

「友希……許してくれ。もう俺を解放してくれないか?」

呟く俺に、友希は、ただ優しく微笑むだけ。

私は、友希の首に両手を回し、力をくわえた。

これで、もう何度目だろう?

友希を殺して庭に埋めた日から、何度も何度も同じ事を繰り返している。

「友希……俺を恨んでいるのか?そう……だよな。憎いよな。でも、そろそろ終わりにしよう。」

友希の亡骸を抱き上げ、私は、再び向日葵の咲く庭へと向かう。

「さぁ……閉幕だ。」

私は呟き、美しく向日葵の咲く庭に、灯油をまき、火をつけた。

赤い炎が勢いよく、庭を焼き尽くす。

これで、私は、自由になれる。




「ねぇ、この家って、呪われてるって、ほんと〜?」

「ああ、この廃屋ね……。お母さんから聞いた話なんだけど、旦那が奥さんを殺して、頭がおかしくなってさ。庭で灯油を被って火をつけて死んじゃったらしいのね。それから、その夫婦の幽霊が出るんだって。」

「フ〜ン……。でもさ、その話って、かなり昔の話でしょ?」

「もう40年も前の話だよ。」

「へぇー……。だけどさ、何で、この家、取り壊さないんだろうね?それにさ、40年前の話なのに、この家って、綺麗だよね。庭にもさ、ほら、向日葵が咲いててさ。誰か住んでるみたいだよね。」

「やだー……。怖くなっちゃった。もう、行こうよ。」






今日も友希は、私の隣にいる。


まるで、向日葵のような優しい微笑みを浮かべて……。







ー第八章 繰り返す殺人鬼【完】ー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る