第三章 優しい殺人鬼
とある県で、殺人事件が多発していた。
その犯人が三年目にしてやっと逮捕された。
犯人は、23歳の男。被害者は、12歳から60歳の男女約20人。
これは、その事件を担当した刑事と殺人鬼の取調べの時の状況と会話である。
「殺人の動機は?」
刑事に聞かれ、犯人は、しばらくの沈黙の後、こう応えた。
「動機?……動機ね……。刑事さん、人を殺すのに動機なんているんですかね?」
「殺人を犯す程の原因が知りたいんだ。君は、何の原因もなく、人を殺すのか?」
尋ねる刑事に、犯人は、口元に笑みを浮かべる。
「……殺したかったから?……いや、違う。殺してくれと頼まれたんだ。」
「頼まれた?」
「ええ。みんな死にたがっていたんですよ。例えば……。」
犯人は、一呼吸置き、刑事に向かって、こう言った。
「刑事さん。喉が渇いたので、お茶を頂けますか?」
犯人の希望通り、湯のみに注がれたお茶が差し出される。
「ほらね。私がお茶を飲みたいと言ったら、お茶を出してくれたでしょ?それと同じですよ。殺してくれと言われたので殺したんです。」
刑事は、眉間に皺を寄せ、犯人を見つめる。
「被害者とは顔見知りだったのかね?」
「いいえ。知らない人ばかり……。出会いなんて簡単ですよ。今はネットの時代です。探せば死にたいと願っている人なんて、何処にでもいます。私は、その手伝いをしただけです。」
殺人を犯した者とは思えない程の優しい笑みを浮かべる犯人を刑事は、じっと見つめる。
長い取調べの時間が過ぎ、犯人にも刑事にも疲れが出てきていた。
「もう、いいじゃないですか刑事さん。連続殺人鬼は私なのですし、殺したかったから殺しただけの事。それ以上、何を知りたいんです?」
「……じゃあ、最後に、もう一つ。人を殺した時、どんな気持ちだった?」
「どんな気持ちって……別に、何も感じませんよ。ただ願いを叶えてあげれて良かった……と。」
そう言った犯人に、刑事は、フーンと鼻を鳴らした。
「俺は……ドキドキしたよ。死んでいく奴の苦しむ顔を見て、ワクワクしたよ。君は、優しいな。他人を思いやる気持ちがある。俺は、自分が満足出来れば、それでいいと思っている。」
「刑事さん……あんた……?!」
震える瞳で見つめる犯人の額に、スッと拳銃を構え、刑事は言う。
「俺は、刑事だから。君を撃っても、いろんな言い訳が出来る。」
「や……やめろ……!」
立ち上がろうとした犯人に向かって、刑事は叫ぶ。
「やめろ!暴れるな!!」
そう叫びながら、刑事は、拳銃の引き金を引いた。
「どうして、犯人を撃ったのかね?」
その問いに、刑事は、優しく微笑み応える。
「どうせ、死刑になるのでしょ?絞首刑で、苦しんで死ぬよりも、銃弾一発で死ねた方が楽じゃないですか。あの犯人にも、被害者の気持ちを考えて殺人を犯したんです。優しいと思いませんか?そんな優しい犯人に、絞首刑だなんて……可哀想ですよ。だったら、私が……と思いましてね。だって、私は……。」
「優しい人間ですから。」
ー第三章 優しい殺人鬼【完】ー
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