第2話  最高の誕生日

彼と付き合って、初めての誕生日が来た。

私は何日も前から、彼と過ごすための準備している。

それが手作りケーキだ。 


「えへへ」


苺、キウィ、オレンジ、ブルーベリー

クリームの間から見える断面がなかなか良く作れたと思う。


「あ、フルーツサンドだよねこれ」


ネット動画を見て、そのレシピが一番美味しそうだった。

簡単で見た目も良い まさに私のためのレシピだよ。

彼の好きなフルーツをたくさん詰め込んだ一品の完成だ。


「美味しいって言ってほしかったな」


彼はいない。アルバイト中だ。

今日はあたしの誕生日なんだよ。

ねえ悠くん

少しくらい遅れたって良いよ。かならず来るんだよ。



落ち着かない

そんな私を見て唄ちゃんは、


「なんで年下が良いの。近くにもっと素敵な人がいるのに」


そんな事言ってた。


「近くに素敵な人? 誰のこと」


「ほら、あんたの幼馴染とか」


「ああ」 裕太くんか


その子は、私が振られたことを知らないんだ。

私は彼女だけに聞こえるよう、小声で伝えた。

「実はもう振られたんだよ」


「うそ!いつよ」


「高1のときかな」


「彼はね、お姉ちゃん一筋なんよ。でもお姉ちゃんが結婚したから、ここはチャンスと思って告白したんだ。でも振られた。今付き合っている人がいるからって」


そう伝えると、友達は考え込んでいた。そして、


「彼、今はフリーのはずよ」そう答えた。


「その付き合っている子って、私のことよ」


なにそれ。


「・・・知らなかった」いまさら


「たぶんタイミングが悪かったのよ」


「今からでも遅くないんじゃない、まだ少しは好きなんでしょ」


「私は今付き合っている人いるから」


今は悠くんの彼女なんだよ。


もう、悠くんは早く来てよ



その後、友達は他の席へ移動した。

喧騒の中、妙に心は静かだった。


裕太くんは本当にお姉ちゃんの事が好きだった?


お姉ちゃんは容姿端麗文武両道。

そしてとっても可愛い人。

そんな人に渡しかなうわけがない。


みんなお姉ちゃんを好きになる。

だから彼の大好きは信じられなかった。

信じて後で傷つきたくなかった。


「裕太が私の事好きなんて有り得ないよ」


昔は裕太の事を好きだったけど、

今の渡しには大切な人がいる。


だからこの思いにフタをした。

何重にも鍵をかけて、開かないように。


今の幸せを 壊さないように





「それにしても、璃ちゃんの彼氏さん遅いね」


「バイトしているんだよね」


「そうそう、そのバイト先の制服が可愛くてさあ」


私は何かをごまかすように、おしゃべりに花を咲かせた。



そして彼から連絡が入った。

バイトが夜遅くまでに伸びたという知らせ。


信じられない。なんで今なの。どうして


そうして、忙しい中かけている彼にそっけない態度を取ってしまう。


早くそばに来てほしい。


このままじゃ自分がわからなくなるよ。





みんなは気を使って、私のことを慰めてくれた。


だからいつまでも暗い顔をしてちゃいけない。

よし、楽しもう!


「みんな、料理も飲み物もまだまだ沢山あるからいっぱい食べてよ」


「おお、璃ちゃん元気が出てきたね!」


「よし、食べるぞー」


そうだ。

今は食べて忘れよう


たくさん飲んで、食べて、

そうしたら

この心にできたもやもやも、きっと無くなるはずだ。


*



「璃ちゃん大丈夫?」


「裕太か・・うん。ヘーキヘーキ」


心の中がぐちゃぐちゃだ。


裕太が心配そうに私を見てた。


「平気な人は泣かないよ」


そうかもしれない。

駄目だな私は。

昔から裕太の優しさに甘えて。


こんなんじゃ駄目だ。

いくら優しくされても、私は何も返せない。


「そこ、お触りは禁止よ」


「そんな事してないし」


「本当かな」


クラスメートからのツッコミに、ぎこちなく笑う彼。


「みんな大丈夫よ。私裕太に一度振られてるから」


言った瞬間、しまったって思ったけどもう遅かった。

私の爆弾発言にみんなはキャーキャー大騒ぎ。


「えー知らなかった!」


まあ、言ってなかったし。


「高一の時告白して振られたの。裕太は私の姉の事が好きなの」


みんなは信じてくれたけど、うたちゃんだけは疑っていた。そんなはずないって。


「・・・そんなはずない。だって彼女のことが忘れられないからって私は振られたんだよ」


唄ちゃんの爆弾発言に、みんな驚いた。


「もう!ほら、裕太くんもなんとか言って」


みんなの誤解をとかなきゃ


「僕は好きだよ」


突然彼は告白した。


ヒューヒューと、声が上がる。


「止めてよ。今日は私の誕生日なんだよ。そんなこと言うやつにはこうだ!


ニヤニヤする皆の頭にチョップして回る。


「よし歌うよ!」


彼がいなくても泣かないように、私は忘れるために歌った。


遅くまで食べたり

歌ったり。


*


「喉乾いたー」


誰のか分からないけど、手元のオレンジジュースを飲んだ。


ん、変な味


普段飲んでいたオレンジジュースとは違う味がした。


「でも甘くて美味しい、なにこれ」


誰が持ってきたのか知らないけど、勝手に頂く事にした。


まだ彼は来ない。


私は落ち込みそうになる度にひたすら飲み続けた。


・・・これ、ひょとしたらアルコールなんじゃ


遅ればせながら、私はようやく飲み物の正体に気づいた。


この時点で半分以上飲んでいたけど。


「ううっ気持ち悪い」


トイレで吐いた。

そうしたら少し楽になった。


*


それから何時間かすぎたんだろう

気がつけば部屋は無人だった。


頭が痛い

あれー、ここはどこだろう。

私何してたっけ


「大丈夫?」


あ、誰かいた


「・・うん、少し気分悪いけど。多分大丈夫・・・ありがとう」


ソファーに寄りかかる私の背中をさすっていた。


優しい手だ。

とても温かい手。


それにこの声を私は小さい頃から聞いている。


誰だっけ


上手く名前が思い出せないけど、覚えている。


この人の事をいつも見ていた。


嬉しい時、悲しい時、いつもそばにいてくれたこの人を。


私の大切な人なんだよ


「ありがとう、君はいつも優しいね」


ふふふ。


そんな彼との久しぶりのスキンシップに、ドキドキしてる。だから

私は少し意地悪になった。


背中にあった手を掴むと、お腹の上でクロスさせた。いわゆるハグだ。


その手は少し震えていた。

よしよし。上手くいった。

私だけ緊張するのは不公平なんだよ。


彼が強く抱き締めてくれた。

体が震えた

緊張とそして安堵


気づけば2人ともベットに居たけど。


いつかこんな日が来るかもって、想像してたけど


まさか今日とは。


アルコールのせいか、考えが散漫だ。

そう言えば彼の進学先は県外だった

よなぁ・・・


あれ、彼まだ高一でだから

進学関係無いよね


イケメンのはずの彼

可愛らしい女の子の様な彼


だめだ思考が混乱している。

なんでだろう、彼の姿が思い出せない


でもこの時たしかに、

私は幸せだった


幸せだったよ


*


翌朝

私は1人ベットにいた。


目覚めの珈琲は・・・無いよね。


そんな事を考えていたら頬が緩んできた。

顔が赤くなるのがわかる。


登ってしまったんだ、大人の階段を


その日は部屋の片付けやら、将来どうしょうかとか考えていた。


そうだ彼にも聞かなくっちゃ

結婚はどうするのか。


いきなりだと引かれるかな

まだ高校生だし


その日は1日中ふわふわしてた

幸せだよ悠



後日

私にとって人生最高の日は、最悪へと変わった。


彼との大切な思い出は、忘れてしまいたい記憶になった。


「・・・ねえどうしてよ。なんでなのよぉ」


あの時酔っていなければ


誰か他にも残っていたら


後悔ばかり

でも悪いのは全部私だ。


私は彼を裏切ってしまったんだ


*


この時の記憶を消せるなら

命だって惜しくはない。


そして

酔った私を抱いてしまった彼を、

このまま放置する必要はないよね。

どうにかしてやりたい。

でも。


私は唇を強く噛む

悔しくて体が震える。

私は自分が1番許せないんだ。

この記憶を消してしまえるなら、どんなことでもやるだろう。


「悠くん」


私はあの頃に戻りたいよ。

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