第4話  雨のち雪

人は訪れて欲しい未来を、無意識のうちに夢に見るという。


でも私は、彼との夢をいまだに見たことがなかった。


私達の未来は、用意されていないかもしれない




「うう、寒いなぁ」


今朝は芯から身体が冷える。

それでも朝になれば目が覚める。

空気が冷たい。

布団から顔を出して外を見ると、白いものが降っていた。


「あれー本当に雪になった・・」


イブではないけど、ちゃんとホワイトクリスマスになった。

予報通り ピタリ的中


「ひゃー冷たい!」

ベットから下ろした足が床に着いて、思わず声がでた。

あわてて浴室へと向かう。

熱めのシャワーを浴びていると、だんだん意識がはっきりしてきた。

それとは反対にガンガンと頭が痛みだす。

「もう、朝から頭痛なんて」

昨日はクラスのみんなが来てくれて、とても楽しかった。

誕生日のプレゼントだって沢山貰った。

この年で誕生会は恥ずかしかったけど、やってよかった。



「へ、お誕生会?」

「そう!クリスマスパーティー前に早めに集まってやるの。いいでしょ」

「うーん」困った。

最初は私の部屋でクリスマスパーティーをする予定だった。

一人暮らしだし、部屋も十分広いからと言う理由で。


「まさかクリスマスイブが誕生日だなんて」


その事を知った友人のひとりが、一緒に誕生会もやろうと提案したらしい。

誕生会か・・実は彼と二人でやるんだよね。

バイトで忙しい彼の為、お昼に祝う予定だった。でも、


「うん、いいよ」


彼は嫌がるかもしれないな。あれで恥ずかしがり屋だし。


「ありがとう!あきちゃんだけ誕生会やってなくて、気になってたのよ」


「わかった。よろしくね」


「まっかせて、ろうそく18本立てられる巨大ケーキ用意するから」


楽しそうに笑う彼女の姿に、たまにはこんな誕生日もいいなと私は思った。

夕方からクラスメートとクリスマスパーティー兼私の誕生会。

そこへ彼も合流する。


うん、楽しい一日になりそうだよ。ハルくん



「もう暖房が必要だな」浴槽の中からぼんやりと天上を眺めながら思う。

もともと朝が弱く、シャワーを浴びようやく目が覚める。

でも今日はシャワーを浴びたというのに、なかなか調子が出なかった。

体が思うように動かない。

風邪かもしれない。


ざぶん。

お湯を張った浴槽に頭まで潜ると、次第に冷えた体が温かくなる。

「ぷふぁああ」

頭まで温まり、ようやく少しだけ目が覚めた。


そう言えば、いったい誰が持ち込んだんだろ。

いくら18歳成人とは言え、お酒は20歳から。

まったく、

どちらか一方に合わせて欲しいよ

私はアルコールの類は弱い。

それこそ、子供用シャンペンや、洋酒入りのチョコで泥酔するほどに。

パーティーの途中間違えて誰かのシャンパンを飲んでしまい、それ以降の記憶が曖昧だった。

何かあった気もする


「最後の方は、うろ覚えなのよねぇ」


なんだろう

何か大事なことがあった気もする。


誰かに抱きしめられたような。

そんな感触


それが確かに身体に残っている。

彼が来なかった欲求不満かもしれない。


楽しみにしていた誕生日。

彼に甘えるつもりだった。

けど彼はバイト先のため来られなくなった。


理由はわかってるのに、感情が追いつかない。

彼にきついことも言ってしまった。


私は自分が嫌いだ。

彼に優しくない自分はもっと嫌いだ。

友だちに囲まれて楽しいはずなのに、私はいつまでも彼を探し続けた。


君だけでいい、君がいいんだ


「ごめんね、バイトが終わったら急いで向かうから」


「良いよ別に。 バイト忙しいんでしょ」


私はいつまで子供のままなんだろう。


「私の事なんて、どうでもいいんだよね」


彼より2個も歳上なのに、なんて無様


「かならず行くから、待っていて」


優しい言葉の一つ掛けられなかった。




「へくちょい!」うう寒っ!

考え事していたら、すっかりお湯が冷めた。

慌てて熱いシャワーを浴びたけど、手遅れだったかもしれない。

どうにも体の芯から寒気が止まらなくなってきた。


いよいよひどい冬休みになったよ。まったく。



鼻水をティッシュで抑えながら、ソファーに座る。

上からは綿入り半纏という。

およそ女子高生がしちゃいけない格好だけど、気にしたら負けだ。

冷えは乙女の天的なのだ。


「でもこんなに貰ってのって、小学校以来だよ」


友達からのプレゼントをテーブルに運び、感慨にふける。

あまり親しくない人からも貰っていた。


お返しもできそうにないというのに。

来年はこの中の何人と一緒にいられるだろう。


残り三ヶ月で私達3年は卒業する。

私はこのまま上の大学へ。

でも友達の多くは外部の大学を受験する。


そんな事を考えながら、ぼんやりとプレゼントを見ていたら、女子高生の誕生日プレゼントとしては場違いな物を発見した。


「へーっ、今年もやっぱりこれなのね。テディー・ベア」

あたしもう幼稚園児じゃないんだよ。


幼馴染からのプレゼントは、毎年決まってテディー・ベア。

一度私がくまのぬいぐるみが好きだと言ったら、毎年送られてくるようになった

「しっかし、18歳のプレゼントにこれを贈るのって最早執念だよね。ふふ」


そうはいえども彼は大切な友人。ありがたく貰って置くことにしよう。

その時、私は何かを思い出した気がした。


間違ってアルコールを口にした私を、誰かが優しく介抱してた。


「うーん誰だろう」


全く覚えていないけど、気になる。

ひとまずプレゼント達は棚に移動してもらい、私はコンビニへ出かけることにした。


料理ができない私の生命線だ。

「本当は自炊したいんだけどね」食べられる物が作れないんだ。


財布とスマホをポケットに入れ皮ジャンを着込んだ時、靴箱の上に奇妙なものを見つけた。


「あれ、何でこんなところにプレゼントが」それに開けてもいない。誰からだろ。


ショップの手提げバックからは、淡いの包装紙に包まれたプレゼントが見えた。

持った感じ洋服だろう。


私は、恐る恐るその包みを解いた。

中からは、柔らかいアイボリー色のノーカラーコートが出てきた。

それは私が欲しかったけど諦めていた物だ。


「うそ!うそ!なんで知ってるのよ!」


それだけじゃなく、一緒に着られるシャツワンピもあった。

なんという至れり尽くせり。


「私誰にも話したこと無かったんだけどな」


催促した覚えもない。どうして判ったんだろう。

急ぎ鏡の前で当ててみる。

高校生には少し大人っぽいけど、大学生にはぴったりだ。


「はるくん・・」

手提げバックの底に、カードが見つかった。


あきちゃん、誕生日おめでとう。ハルより」


私はそのカードを胸に抱きしめた。

「・・・ずるいよハルくん。こんなサプライズ用意してさ」


そうだ、ようやく思い出した。


ゆうべはきっとハルくんと一緒だったんだ。

恥ずかしがり屋のハルくん。

奥手のハルくんは妙なとこ強気なんだよね。

こう見えても私は押しに弱かったし。


「ほんと、私ってちょろいなあ」


昨日まで彼に感じていた不満が全部吹き飛んだよ。

早くこれを着て見せたいな。

お礼も言いたい。


この服を着た私と、彼が並んで歩くのを想像する。

平均よりも小柄で、誰よりも可愛い彼が隣に並ぶと、私は完全にお姉さんになってしまう。


「ハルくん今だけだよ。年の差が気になるなんて」


だから今回だけは我慢してもらう。


その代わり返事しよう


『僕が18歳になったら結婚してください』


そう告白した彼への返事を。


私は彼の事が好きだ。

それは、結婚したい程かは判らない。


でもさ、

彼以外と結婚する自分は、想像できないんだ。

だから、堂々と答える。自分の気持ちを


できれば子供は3人くらいは欲しかったけど、


彼が来た事がわかったので、私はすっかり安心した。

昨夜のあれは、彼なんだと。


酔ってお持ち帰りされるという、醜態はさらしていない

少しだけ不安になって、私は急いでスマホを出す。


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