第4話 雨のち雪
人は訪れて欲しい未来を、無意識のうちに夢に見るという。
でも私は、彼との夢をいまだに見たことがなかった。
私達の未来は、用意されていないかもしれない
*
*
「うう、寒いなぁ」
今朝は芯から身体が冷える。
それでも朝になれば目が覚める。
空気が冷たい。
布団から顔を出して外を見ると、白いものが降っていた。
「あれー本当に雪になった・・」
イブではないけど、ちゃんとホワイトクリスマスになった。
予報通り ピタリ的中
「ひゃー冷たい!」
ベットから下ろした足が床に着いて、思わず声がでた。
あわてて浴室へと向かう。
熱めのシャワーを浴びていると、だんだん意識がはっきりしてきた。
それとは反対にガンガンと頭が痛みだす。
「もう、朝から頭痛なんて」
昨日はクラスのみんなが来てくれて、とても楽しかった。
誕生日のプレゼントだって沢山貰った。
この年で誕生会は恥ずかしかったけど、やってよかった。
*
「へ、お誕生会?」
「そう!クリスマスパーティー前に早めに集まってやるの。いいでしょ」
「うーん」困った。
最初は私の部屋でクリスマスパーティーをする予定だった。
一人暮らしだし、部屋も十分広いからと言う理由で。
「まさかクリスマスイブが誕生日だなんて」
その事を知った友人のひとりが、一緒に誕生会もやろうと提案したらしい。
誕生会か・・実は彼と二人でやるんだよね。
バイトで忙しい彼の為、お昼に祝う予定だった。でも、
「うん、いいよ」
彼は嫌がるかもしれないな。あれで恥ずかしがり屋だし。
「ありがとう!
「わかった。よろしくね」
「まっかせて、ろうそく18本立てられる巨大ケーキ用意するから」
楽しそうに笑う彼女の姿に、たまにはこんな誕生日もいいなと私は思った。
夕方からクラスメートとクリスマスパーティー兼私の誕生会。
そこへ彼も合流する。
うん、楽しい一日になりそうだよ。ハルくん
*
*
「もう暖房が必要だな」浴槽の中からぼんやりと天上を眺めながら思う。
もともと朝が弱く、シャワーを浴びようやく目が覚める。
でも今日はシャワーを浴びたというのに、なかなか調子が出なかった。
体が思うように動かない。
風邪かもしれない。
ざぶん。
お湯を張った浴槽に頭まで潜ると、次第に冷えた体が温かくなる。
「ぷふぁああ」
頭まで温まり、ようやく少しだけ目が覚めた。
そう言えば、いったい誰が持ち込んだんだろ。
いくら18歳成人とは言え、お酒は20歳から。
まったく、
どちらか一方に合わせて欲しいよ
私はアルコールの類は弱い。
それこそ、子供用シャンペンや、洋酒入りのチョコで泥酔するほどに。
パーティーの途中間違えて誰かのシャンパンを飲んでしまい、それ以降の記憶が曖昧だった。
何かあった気もする
「最後の方は、うろ覚えなのよねぇ」
なんだろう
何か大事なことがあった気もする。
誰かに抱きしめられたような。
そんな感触
それが確かに身体に残っている。
彼が来なかった欲求不満かもしれない。
楽しみにしていた誕生日。
彼に甘えるつもりだった。
けど彼はバイト先のため来られなくなった。
理由はわかってるのに、感情が追いつかない。
彼にきついことも言ってしまった。
私は自分が嫌いだ。
彼に優しくない自分はもっと嫌いだ。
友だちに囲まれて楽しいはずなのに、私はいつまでも彼を探し続けた。
君だけでいい、君がいいんだ
「ごめんね、バイトが終わったら急いで向かうから」
「良いよ別に。 バイト忙しいんでしょ」
私はいつまで子供のままなんだろう。
「私の事なんて、どうでもいいんだよね」
彼より2個も歳上なのに、なんて無様
「かならず行くから、待っていて」
優しい言葉の一つ掛けられなかった。
*
*
「へくちょい!」うう寒っ!
考え事していたら、すっかりお湯が冷めた。
慌てて熱いシャワーを浴びたけど、手遅れだったかもしれない。
どうにも体の芯から寒気が止まらなくなってきた。
いよいよひどい冬休みになったよ。まったく。
*
鼻水をティッシュで抑えながら、ソファーに座る。
上からは綿入り半纏という。
およそ女子高生がしちゃいけない格好だけど、気にしたら負けだ。
冷えは乙女の天的なのだ。
「でもこんなに貰ってのって、小学校以来だよ」
友達からのプレゼントをテーブルに運び、感慨にふける。
あまり親しくない人からも貰っていた。
お返しもできそうにないというのに。
来年はこの中の何人と一緒にいられるだろう。
残り三ヶ月で私達3年は卒業する。
私はこのまま上の大学へ。
でも友達の多くは外部の大学を受験する。
そんな事を考えながら、ぼんやりとプレゼントを見ていたら、女子高生の誕生日プレゼントとしては場違いな物を発見した。
「へーっ、今年もやっぱりこれなのね。テディー・ベア」
あたしもう幼稚園児じゃないんだよ。
幼馴染からのプレゼントは、毎年決まってテディー・ベア。
一度私がくまのぬいぐるみが好きだと言ったら、毎年送られてくるようになった
。
「しっかし、18歳のプレゼントにこれを贈るのって最早執念だよね。ふふ」
そうはいえども彼は大切な友人。ありがたく貰って置くことにしよう。
その時、私は何かを思い出した気がした。
間違ってアルコールを口にした私を、誰かが優しく介抱してた。
「うーん誰だろう」
全く覚えていないけど、気になる。
ひとまずプレゼント達は棚に移動してもらい、私はコンビニへ出かけることにした。
料理ができない私の生命線だ。
「本当は自炊したいんだけどね」食べられる物が作れないんだ。
財布とスマホをポケットに入れ皮ジャンを着込んだ時、靴箱の上に奇妙なものを見つけた。
「あれ、何でこんなところにプレゼントが」それに開けてもいない。誰からだろ。
ショップの手提げバックからは、淡いの包装紙に包まれたプレゼントが見えた。
持った感じ洋服だろう。
私は、恐る恐るその包みを解いた。
中からは、柔らかいアイボリー色のノーカラーコートが出てきた。
それは私が欲しかったけど諦めていた物だ。
「うそ!うそ!なんで知ってるのよ!」
それだけじゃなく、一緒に着られるシャツワンピもあった。
なんという至れり尽くせり。
「私誰にも話したこと無かったんだけどな」
催促した覚えもない。どうして判ったんだろう。
急ぎ鏡の前で当ててみる。
高校生には少し大人っぽいけど、大学生にはぴったりだ。
「はるくん・・」
手提げバックの底に、カードが見つかった。
「
私はそのカードを胸に抱きしめた。
「・・・ずるいよハルくん。こんなサプライズ用意してさ」
そうだ、ようやく思い出した。
ゆうべはきっとハルくんと一緒だったんだ。
恥ずかしがり屋のハルくん。
奥手のハルくんは妙なとこ強気なんだよね。
こう見えても私は押しに弱かったし。
「ほんと、私ってちょろいなあ」
昨日まで彼に感じていた不満が全部吹き飛んだよ。
早くこれを着て見せたいな。
お礼も言いたい。
この服を着た私と、彼が並んで歩くのを想像する。
平均よりも小柄で、誰よりも可愛い彼が隣に並ぶと、私は完全にお姉さんになってしまう。
「ハルくん今だけだよ。年の差が気になるなんて」
だから今回だけは我慢してもらう。
その代わり返事しよう
『僕が18歳になったら結婚してください』
そう告白した彼への返事を。
私は彼の事が好きだ。
それは、結婚したい程かは判らない。
でもさ、
彼以外と結婚する自分は、想像できないんだ。
だから、堂々と答える。自分の気持ちを
できれば子供は3人くらいは欲しかったけど、
彼が来た事がわかったので、私はすっかり安心した。
昨夜のあれは、彼なんだと。
酔ってお持ち帰りされるという、醜態はさらしていない
少しだけ不安になって、私は急いでスマホを出す。
よし、まずはメールメールっと!
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