ドミナント・ウォーカーズ ~とある凡人の、天まで轟く冒険譚~

御島クロイ

序章 そこは未知にて未踏の大地

 ──もし神様がいたのであれば、は彼らにとって、巨大な玩具おもちゃ箱であり、遊び場でもあったのだろう──。


 神の存在を信じぬ者ですら、口を揃えてそのように言ってしまうだけの幻想が、には詰め込まれていた。


 何にでも敵意と飢餓きがを振り撒き、襲いかかる『魔物』。

 立っている位置も方角も変えていないはずなのに、とある『巨木』を中心に、定期的に入れ替わる大地。

 鍛治師かじしが見るだけで、発狂してしまいかねない見事な美しさと、強力な魔の力を秘める剣が、まるで失敗作と言わんばかりに無数に突き立てられた『魔剣の墓場』に、金銀色とりどりの宝石だけで形成された『極彩色ごくさいしきの大砂漠』。


 それらが全て、アーヴェム大陸の北に密集しているのだから、神を信じぬ者ですら、神の存在を仮定する。

 人々は思ったのだ。きっとこの大陸の北は神様の玩具箱で遊び場なのだろうと。

 醜く愚かな人に触れさせないために、この世界の幻想を全てかき集めた玩具箱で、その玩具を存分に楽しめるだけの広い広い遊び場なのだと。


 だからこそ人々は、神様の遊び場に、容易に踏み込むことができなかった。

 この世のものとは思えないほど幻想的なものが、人間に牙を向かないとは限らないからだ。むしろ、その領域にあるもののほとんどが、人間にとって脅威となるものばかりだった。


 魔物は人を襲い、常に位置と方角を確認しなければ、入れ替わる大地によって、容易く迷ってしまう。

 何の力も持たない者が遊び半分に踏み込んでしまえば、二度と帰ってくることはできないとされている領域。

 故に、アーヴェム大陸の北を踏破できたものはここ400年間で一人も存在していない。

 大陸の北がどれほどの規模なのか、どのような気候なのか、そもそも住んでいる住民がいるのか、誰にもわからないのだ。

 そうしていつしか、大陸の北には名前がついた。誰も踏破したことがない未踏の地。


 人々はその大地を『未踏領域みとうりょういき』と呼び、恐れ、日常の中から遠ざけていった。


 だが、意外なことに、そんな『未踏領域みとうりょういき』に挑む者たちは後を絶たなかった。


 ──ある者は言った。

 が欲しいと。

 誰も踏破したことがないとされるの領域を攻略したという、大いなる名誉が欲しいと。


 ──またある者は言った。

 を求めていると。

 剣の墓場や極彩色の大砂漠のようなまだ見ぬ幻想を、求めて止まないのだと。


 結局のところ、人々は挑まずにはいられなかったのだ。どれだけ恐ろしい領域であろうとも、そこに名誉と幻想がある限り。

 無謀にも大陸に挑もうとする者達に対し、多くの人々は呆れを抱いた。


 なぜ、命を落とすような危険な地にわざわざ挑むのかと。


 しかし同時に、名誉や幻想を求め、目を爛々らんらんと輝かせる彼らに羨望せんぼうを抱いていたのも確かな事実だった。

 呆れと羨望。その二つの感情を同時に抱かせる彼らにある時、名前が送られた。


 未知にして未踏の大地に挑む彼らに送られた名は『踏破者ウォーカー』。

 いつの日か、送られた名の通り、未踏の地を踏破できるようにと願いを込めて。


 だから、これは彼らの物語だ。

 『未踏領域みとうりょういき』に挑む、踏破者ウォーカーたちの物語。


 未知にして未踏の大地を踏破した先に何が待っているのか。

 それはまだ、誰にもわからない。

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