第19話 精神統一

自分じゃ恋愛も全くダメ。

部長としての方向性も示せていない。

よく考えると、自分でも勉強する為に立ち上げた「傍観倶楽部」だが、何故か部員が入った事で少しだけ先輩風を吹かせている感じもする。

よく考えろ!そうだ、俺はビギナーじゃないか!

恋愛の超初心者じゃないか!!

部員が入った事で勘違いする所だった。まだまだ人に指南するなんて出来るわけがない。浮ついていた。

やはり女子の思考を掴む事自体、俺には無理なのかもしれない。

チーボーが入部して嬉しい反面、「非常に扱いずらい」と思っている俺がいる。

可愛いと思う反面「憎たらしい」と思う事もある。

付き合いたいと思う反面、「目の前から失せろ!」と思っている俺がいる。

一緒に頑張ろう!と思う反面「退部お願いします!」と思う事もある。


ああ、俺はそもそも対人関係においてのスキルが無いのに、何故?部員を入れるなんて事をしてしまったのだろうか。


自分の「下心」があったから?

チーボーを「女」として見てしまったが為に、浅はかな自分の”下衆”な心が俺をそうさせてしまったのだ。

ところがどっこい、チーボーはその気が丸っきりなかった。

単純に本当に入部しただけだった。彼女自身、男の気持ちを知りたかっただけ。

恋愛テクを勉強したかっただけ。

「恋」とは何か?を追求していたにすぎないんだ。


でもチーボーは、人間的知性にかなり欠けていた。

まるで失敗したロボットのように受け答えが間違っている。

回路が壊れているとしか思えない言動の数々。

俺に扱いが出来る訳がないんだ。取説があってもそれには訳の分からない言葉で書いてそうだし、人類史上初めて誕生した生き物くらいにしか見えない。

制御できない・・・常に「暴走モード」に突入しているようにしか見えない。

嗚呼・・・。どうしたらいいんだ。

(広瀬壮介!どうするどうする?)

これからのチーボーとの時間をどうするべき・・・。

彼女はやる気満々だし。

俺は自信がそぎ落とされていくし・・・。

この天気の良い昼下がりに溜息しか出ない・・・。


いやいや、待てよ・・・。これも出会いなんだ??

そうだ、神様が与えてくれたもの。

二人はお互いに出会うべくして出会った・・とも考えられなくもない。

チーボーのコントロールの収まらない大暴投のような言葉の操り方はきっと、神様のいたずら?そうだ、きっとそうなんだ!


(結局ポジティブな俺だった。)


ちょい、ちょいーーー、待てよ・・・。


「・・・・」


よく思い出せ。入部の際の確認事項で、

俺はチーボーに、「目の前にいる俺も男だが」という質問をした時、確か返ってきた言葉が、こうだったような・・・。


「はい!ヒロセは部長ですのでご迷惑をお掛けするような事は致しません!」


よく考えろ。そうだ。この一字一句を。

お前の神経を研ぎ澄まして、ふかーく、ふかーーーく、考えろ・・・。


「ご迷惑をお掛けするような事は致しません!」


「ご迷惑を!・・・。」


え??!!そうか!俺の解釈がダメだったのかもしれない!もしかすると・・・。

んーー、俺って駄目な男だな!と、気付いてしまう。

本当はチーボーのあの発言はこうだったのでは?


(ヒロセにご迷惑は掛けられません!貴方の事を好きでも、私はヒロセへの気持ちを我慢するしかないんです!!!だって、私が好きになったら迷惑かけちゃうし・・・。そんな事、絶対に出来ない。好きな気持ちを押し殺して私はあなたと共に歩みます!!側にいられるだけで、私は満足なんです。これ以上の望みをしたら、罰が当たります。きっと神様にも怒られます。だから、だから、目の前のヒロセの事は・・・。ただ、見つめていたいだけなんです。でも、そんな事絶対にヒロセには言えないもん!)


とも考えられる・・・。

そうすると、わざとあんな変化球を出して俺にこう思わせたいのか?


(まったく、チーボーは手が掛かるな。俺が側にいないと何にも出来ないんだな。仕方ない、側にいてあげるよ。君の我儘は俺がせーーーんぶ受け止めるよ。)


こう考えると、俺のこの考えの方が正しく思えてきた。

ああ見えて、チーボーはなかなかの策士かもしれない。

ならばもっと本人らしく生きられるように、俺が大人としてリードすれば良いのかもしれない。


例えば・・・。


「チーボー、もっと肩の力を抜いて良いんだよ。君は君らしく、ありのままで良いんだよ。チーボーを見ていたら、力みすぎかな?って思っちゃうよ。」


「え!ヒロセ・・・。優しいですね。私どうしても考えすぎちゃって。そのせいで体が言う事聞きません。力んでいるのお見通しなんて・・・、流石部長です。私、本当に、ありのままで良いのですか?ヒロセ・・・。」


「傍観している時のチーボーはどこか可笑しかったからね、自分らしく、そして素直に自分の気持ちを打ち明けてごらん・・・。チー・ボー・・・・。」


「ヒロセ・・・。素直になっちゃってもいいんですね?私。本当に・・・甘えても・・・。」


「もちのろんだよ。チーボー。ははは・・・。」


「はははは!」

と、チーボーからも笑う声が返ってくる。


そして二人はめでたく結ばれるのでした・・・。


うん、なんだか俺の想像通りの気がしてきた。

俺はもしかしたら、女の子の気持ちを語らせたらパーフェクトなのかもしれない。

こうやって気付いてしまう俺は、ある意味本当の「恋の魔術師」かもしれないな。


なんだかすっきりした気持ちで今日という日を迎えられ、部屋に入る日差しがいつもよりもキラキラして見えた。

それはまるで俺の事を祝福しているかのように。

だろうだろう、太陽も鳥たちも皆が俺の背中を押してくれている。


心の中でチーボーに対して俺は呟いた。


「鈍感で本当に・・・ご・め・ん・ね・・・。」


シャイボーイ・ヒロセ!行きます!



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