第20話 探る
今日はチーボーの本当の本当の!気持ちを探るべく本人と会う約束をしてみた。
ヘロンさんとの思い出の喫茶店で確認しようと・・・。
やはり俺の脳裏には、何かの時にはあそこで「ウインナーコーヒー」!
と決まっているような・・・気がする。
待ち合わせは・・・そうです。あの場所です。
という事で、ヘロンさんの時と同様に新宿ALTA前で待ち合わせをする。
何も進歩が無いと思うかもしれないが、そうではない。
何も気にしていないから、同じ場所で会えるのだ。
もうヘロンさんへの恋の未練は断ち切ったからこそ行けるのだ。
あの場所でリセットして再始動する為に。
広瀬壮介行きます!!
チーボーとALTA前で1時に約束。
Gパンに長袖シャツを着た俺は、人だかりを眺めながらチーボーを待った。
やはり俺は人間観察が好きらしい。
カップルのたわい無い会話を聞いていると、何だか羨ましく思える。
「ねーねー、あそこ見てみない?」
と、彼女が彼に話しかける。
「お、いいね!行こうか!俺も見たかったんだー。」
と、さりげない返しをしている彼。
こんな感じのリラックスしたやり取りが俺もしたいんだよなー、と思いながら、心にチーボーとのやり取りを思い描いてみる・・・が、どうしても少し変化球みたいなやり取りしか思い浮かばない。
・・・絶対に嚙み合わない感じになる事しか想像出来ないようだ。
そんな事を考えながら壁に寄り掛かっていると、なんとなく俺も都会の人間になったなー、なんて気がしてくる。
茨城から出てきてからの俺は、人間的にも擦れてしまったのかもしれない__
そして待ち合わせ時間3分前にチーボーが現れる。
チーボーが息を切らして走ってくるその姿が、若手アイドルが手を振って波打ち際を走って来るビデオのようでドキドキしてしまった。
「あははははははあ・・・・」みたいな感じで。
彼女はショートパンツに大きめの赤いドルマントレーナーを着て登場。
袖から少しだけ見える指が、可愛らしさをさらに強調していた。
※ドルマントレーナーとは、ムササビのように広がる感じの当時の流行りのファッションだ。
その姿を見るなり、やはり「可愛いじゃないか」と思ってしまう俺がいたが、今日は本当の意味でチーボーの気持ちを知ろう。これがラストチャンスにしないといけない。何があってもその結果になびこうと決めたのだ。
※想像の中では既にチーボーは俺の「女」になってはいたが・・・。
「こんにちは!んちゃ!ヒロセお待たせしました!今日はカフェでの傍観ですか?」
(んちゃ!とは、アラレちゃんの口癖ではないか!!いきなりかましてくるな!チーボー!)
「いや、今日は傍観とは違うんだ。あくまでもプライベートでチーボーを誘ってみたんだ。俺の好きなカフェに連れていきたいんだ。そこで俱楽部としてではなく、個人的に男子と女子として同じ時間を過ごそうと思う。」
(やはり俺の言い方はギコチナイ。自分でも下手くそな言い回しだと感じてしまう。)
「なるほど、恋の手ほどきですかね?」
「ん?恋の手ほどき・・・ある意味そうかもしれない。」
「なんだかワクワクしますね!嬉しいです!」
(やはりチーボーは天然なのか?チーボーのワクワクが向いている方向が俺には見当たらない。)
「とりあえず、そのカフェへと行く事にしよう。案内するよ。」
俺に連れられてチーボーは後ろをちょこちょこと付いてくる、それがペットのようで更に可愛く感じてしまう。
「あのさ、チーボー、その・・・後ろからちょこちょこ付いてくるのは、なんだか犬みたいだから横に並んで歩けば?」
という俺に、チーボーはすかさず返してくる。
「え?部長の横に歩いてもよろしいんですか?そんな贅沢な!!女は3歩下がれと昔から言われてますので・・・。」
(おいおい、変なところで奥ゆかしい所があるじゃないか。チーボーの男女の基準値が分からない。)
「いやいや、横の方が良いよ。対等に会話を楽しもう。」
「了解です!ヒロセ!」
そう言いながら少し早歩きで俺の真横にぴったりと付いてくるチーボー。
(俺の歩幅に合わせる為に必死に歩くチーボーは、なんとなく競歩しているように見えしまうのは俺だけだろうか?腕を振り過ぎに感じてしまうのは俺だけなんだろうか??)と思う位、ぶんぶんと腕を振るチーボー。
「あのさ、チーボー、もう少しリラックスして歩けないかな?なんだか腕の勢いが凄くないか?」
「そうですか?ヒロセ!昔、本で読んだのですが、腕はぶんぶんと振り回すと運動になるらしいと書いてありました。」
(いやいや、こんな所でエクササイズ??)
「チーボー、今は一緒に二人で散歩している老夫婦ではないのだから、普通に歩いてもらえますか?なんだかその歩きが目立ちすぎているような・・・。ほら、周りを見てご覧・・・。」
チーボーが周りを見渡すと、こちらを見て(クスクス)と笑っている人達が沢山いる。
そりゃそうだ、この歩き方じゃ可笑しいだろ、と思っていると、まさかの言葉がチーボーから放たれる。
「ヒロセ!」
「ん?どうしたの?」
「ヒロセ!何故か周りの人達がヒロセを見て笑ってるぞ!」
(おーーーーい!おーーーーい!ちがーーーう!君の事見て皆笑ってるんだよー!気付けよーーーー!)
「いや、チーボー、それ違うと思うけど・・・。チーボーの歩き方だと思うよ。デュークよりも凄い歩き方だよ。」
「え?私ですか!!!普通に歩いてますが!!!」
(おーーーい!チーボーの普通はそれかーーーーい!)
「うん、じゃあさ、その大きく手を振るのをやめてみようか・・・。」
と、大振りの手の動きを止めさせる事に。
(おーーーーい!手と足が同じ動きじゃないかー!!ロボットになってるよーーー!)
「チーボー、普通に歩こうか?俺の言い方が悪かったかもしれない。競歩でもなくロボットでもなく、”歩行”をお願いします。」
「了解しました!ヒロセ!」
(良かった、普通になった。やはりチーボーは天然ではなく・・・馬鹿なのかもしれない。いや、絶対に馬鹿だ・・・。)
と、やり取りしている間に例の喫茶店のビル前に到着した。
「チーボー、このお店だよ。この地下にあるんだ。」
そして二人は、俺の想い出の階段をゆっくりと降りていくのであった・・・。
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