第10話 CASE1 電車

早速俺は、俱楽部としての行動に移す事にした。

立ち止まってはいられない。色んな日常の風景から役立つ情報を得なければ。

___

まずは電車にいるカップルを見学する事にしよう。

電車に乗ると言ったら、やはりこの電車しかない。

そうだ、山手線。永遠に止まらずに乗っていられる。そして乗客には若者も沢山だ。


ここで皆のエンドレスラブストーリーは始まる。恋も電車もノンストップ。

・・・上手い事言うな、俺は・・・と自分に酔ってみたりもする。

ポジティブ全開。良い滑り出しだ。


______

目黒線で目黒駅へ。そしてそのまま山手線に乗り換え。

目黒から新宿方面へ乗り込む。途中には渋谷、原宿がある。二か所共、最高の駅だ。

この二つの駅はカップルが乗り込む確率ほぼ100%のホットステーションだ。

そして自分の中の最高の電車内ポジション。それは扉に一番近い席の目の前の場所に立つ事。何故なら、扉脇のスペースの事を私は「秘められた三角スペース」と呼んでいる。万が一、その構成が女子1人、男子2人ならば「秘密のトライアングル田園地帯」と呼んでいる。シートと扉の間のスペースはちょうどカップルや、3人組が立ちながら話すのに都合が良いからだ。

夜だとガラス越しに映るカップルの表情が反射して見えるのでさらに幻想的だ。

それを俺は「夕闇のイリュージョン」と呼んでいる。

そして俺が席に座ってしまうと、会話やら仕草などが見られない。

だからこそ、そのシートの端っこの席の目の前に立つのは絶対条件だ。

暇な時は、目の前に座っている人が眠っている事を条件に、その人の「つむじ」見学も出来るから一石二鳥だ。

ちゃんと暇な時の対策もしてある俺はますます絶好調だ。


___定位置確保。俱楽部活動初日。壮介行きます!___


ベストポジションに立っていると運よく20代らしきカップルが扉脇の「秘められた三角スペース」に立った。

よーし!ロックオン!壮介!

俺って本当にラッキーだ。乗って直ぐにチャンスをゲット!

年の頃は俺より少し若いくらい。まあまあ、ちょうどいい。ここからだ。

俺の「傍観タイムスタート」。


とりあえず・・・

その前にどうでも良いが、彼女のでかいトートバックの角が俺の脇腹に当たっている。彼の方にグイっと向くたびに俺の脇腹を突いて来る。

お嬢さん、お願いだ、気付いてくれ、と思うが全く気付く様子もない。

まあ混んでいるから仕方ないが、宜しければこの俺の存在に気付いてトートバックをもう少しだけ引っ込めてくれませんか?

やはり無料観戦はダメですか?

そんな彼女は、俺の腹に突き刺さっているのが分からないくらいに彼に首ったけなんだと理解する事にしよう。

なるほどな。彼氏以外の人間は空気なのか!!

これが本当の、「恋は盲目」というやつなのかもしれない・・・。我慢だ、俺。

うん、会話に夢中なんだな。そして夢中にさせている彼の会話。そちらを頂く事にするよ。それで引き分けだ。


という事で、俺はそのカップルの、彼女のトートバックの角が脇腹に突き刺さるのを耐えながら傍観をスタートする事にした。


「今日は本当に楽しかったねー。あのイタリアンのパスタも本当に美味しかったー。ご馳走様でした♡」


(彼女が喜んでいる。なるほど、イタリアンだな。とりあえず食事はイタリアンに連れて行けば間違いないと、俺の参考書にも書いてあった。そして、「スパゲッティ」とは言わないで「パスタ」と言うのが正解らしい。コーヒーも「コーヒー」ではなく「キャフェ」と言うらしいからな。)


「うん、楽しかったし、本当に美味しかったね!喜んでくれて良かったよ。また来ようね。ご馳走するから!」


(彼氏も自分のエスコートしたデートプランで満足している彼女を見てさらに満足している。大成功なんだな・・・。)


「でも、今度はご飯の前に・・・洋服とかも見に行きたいなー。」


(ん?女性の洋服屋さんに彼も一緒に行くの?いやいや、女性の洋服屋さんに一緒に入るの結構きついよー。周り、女子だらけだよー。)


「いいね、一緒に見てあげるよ!。」


(怖いぞー、お前、女性の洋服屋さんで一緒に見てるとか変態だぞ。)


「嬉しい、そしたら、〇〇君好みの買っちゃおうかなー?うふ!」


(ある意味それは彼氏が選んでコスプレさせるのと変わらなくないか?しかも、うふ?って。)


「良いねー、本当に俺が選んでいいの?何にしよっかなー?」


(聞いているだけだと、本当に変態の会話だよ。もっと俺が勉強になるような会話プリーズ!)


「でもさ、それより〇〇ちゃん今度誕生日だから、プレゼント何がいい?欲しいのある?そっちの方が聞きたいな。」


(お!やっと、彼氏が俺の欲しがっているような会話を始めたぞ!それです!それです!俺の一番欲しかったのは。)


「え!良いの?おねだりしちゃっても・・・何がいいかなー?」


(あー、この会話のやり取り、理想的だー。さあさあ、なんて答える彼女さん!ねだってねだって!)


「ちなみに、予算はいくらまで?」


(おーーー!彼女さん、大胆だけど間違いなく必要な情報だわねー!現実的だー!)


「え?予算?そうだねー・・・3万くらい?」


(彼、なかなかやるじゃん。3万とか、太っ腹。俺は無理だな・・・。1万とかで良くない?)


「?3万・・・。そうかー、何にしようかなー?」


(あれれ?彼女さんの希望額より下だったのか?少しだけ表情が曇ったぞー!)


「じゃ、少し考えてみるね。今日も有難う!」


(家に帰ってパソコンで「3万で買えるプレゼント」とか入力して考えるのかい?)


「うん、了解!じゃ、またねー!」


扉が開くと同時に彼女が電車を降りようとする。

その時まさかの!!脇腹に刺さったトートバックが少し俺の上着に引っかかる!

そして彼女が振り向く!!


あーーーーー!「何すんのー!」みたいな顔で見られてる俺ーーーーー!


いやいや、貴方が俺の脇腹に先にトートバックを刺したですやん!!


「フン!」


(フン!って、俺、被害者なんですけどー!)




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