第8話 待ち人来たらず
あれから暫く待ったが、ヘロンさんからの連絡がないままだった。
流石に一カ月、そろそろ連絡があっても良いのではないか?と思った私は、連絡するべきか、やめた方が良いか、俺の大好きな「幸せの黄色い花びら」に聞いてみる事にした。
「連絡をするー、しなーい、するー、しなーい、するー。」
「する」だ!と、5枚しか花びらがついていない花を買ってきた俺は、結果は分かってはいたが、それをする事により神からOKが出たという事で、ヘロンさんに連絡をする事にした。
(ヘロンさん、こんにちは。お久し振りです。その後、お父さんの調子はいかがですか?暫く忙しいと思い連絡をしていませんでしたが、1か月が経ち、気になって連絡しました。宜しければ少しでも状況お知らせ頂けると嬉しいです。そして、またお会いしたいです。)
これで良し。メールを打った俺は、一度、深呼吸してから送信ボタンを押した。
ボタンを押す俺の人差し指は、いつもよりしなやかで、とても美しいフォルムをしていた。
後は、返信を待つのみ。ヘロンさんの返信はいつも早いから気付いてくれる事を願うばかりだ。
するとすぐに返信の音が!
来た!来た!おーーーーーー!
着信メールをチェックすると・・・まさかの宛先不明でメールが返ってきている!
そんな馬鹿な!!!いや、そんなはずはない。
え?もしかしてヘロンさん、お金が無くなって携帯電話のお金も払えなくなったとか?・・・そこにはポジティブな俺がいる。
・・・。あ、そうだ。アドレスを間違えた?と思いもう一度メールを送信。
・・・。宛先不明・・・。
なるほど。何かは分からないが、彼女にも理由があるはずだ。
そうだ!携帯番号も聞いていたんだ。直接電話をしてみよう。
携帯に登録されている「ヘロン」さんを探し、番号を押す。
・・・。
(プチ)という繋がった音が聞こえた途端、思わず彼女の名前を叫んでいた俺。
「あ!ヘロンさん・・・。」
(お客様のお掛けになった電話番号は現在使われておりません。番号を・・・・)
え?使われてない?そんな。やっぱり携帯のお金を支払えなかったんだ。きっとそうだ。彼女はそこまで大変なんだ。
(とにかく前向きな俺。後ろを向く俺は既に茨城にいる為、ここには存在しない。)
なるほど、きっとヘロンさんも俺に連絡を取れなくて困っているはずだ。
気付かない俺は本当にバカだった。1カ月も待たせてごめんなさい!
という事で、俺は以前お会いした新宿の喫茶店に向かう事に。
何故なら、あそこだけが俺と彼女を結び付ける場所だからだ。
___間違いない。あそこに毎日のようにヘロンさんは来ているはずだ__
きっと彼女はこんな風に考えているはずだ・・・。
※頭の上に吹き出しが出て考えているような場面を想像してください。
「私ったらバカ。本当にバカ!夢太郎さんに連絡する前に携帯を解約してしまって。きっと、この思い出の喫茶店に来れば会えるはず。お願い、夢太郎さん、私、ここで待ってます。ずーっと、ずーっと。」
バックミュージックは間違いなく(あみんの「待つわ」)だ。
ヘロンさん、何しろ俺は恋においては初心者マークでした。気付かなくて本当にごめんなさい。今すぐ会いに行きます!
カッコつけて初デートで初心者マーク付けなかった自分に後悔しています。
広瀬壮介行きます!!
_____
新宿に着き、あの思い出の喫茶店前に到着。
着いたぞ。ヘロンさん、長い間、お待たせしました。
階段を降り、お店のある地下一階に辿り着く。
以前来た時と変わらない佇まいのお店があり、扉からはあの軋んだ音が鳴り響く。
この音が思い出の音だ・・・。
(中には俺の事を待ち過ぎて、ちょっぴりやつれた彼女が座っていて、俺を見かけた途端、立ち上がり俺を出迎えてくれるはずだ)
(夢太郎さん、やっと会えて良かったです。本当に嬉しいです。)なんて言いながら、よく見ると彼女のほっぺたに金色に光る涙が・・・。
というのを想像しながら、中に入ると相変わらず薄暗い照明が俺を迎えてくれる。
殺風景な店内にはお客さんは誰もいない。
(そうか、まだ来ていなかったんだね。ヘロンさん。俺こそ、待ってるよ。)
勿論、その時のバックミュージックも(あみんの「待つわ」)だ。
・・・1時間経過・・・2時間経過・・・4時間・・・
この間の思い出のウインナーコーヒーをすでに5杯飲んだ。
俺の体の中はウインナー…間違えた。クリームだらけだ。さすがに少しむかむかしてきた。そうだ、あの店員さんに聞いてみよう。ヘロンさんはよく此処に来ていると言っていたから聞けば何かしら分かるはずだ。
俺って本当にダメな所あるよね!と、自分に突っ込み、
「あの、すいません。ちょっとお尋ねしたいんですが。」
「あ、はい。なんですか?」
この間の仏頂面の彼女が小さな声で答える。
「この間、僕がこのお店来たの覚えてますか?女性と二人で・・・あ!今日と同じウインナーコーヒー頼んだんですが。」
「覚えてますよ・・・。」
良かった!覚えてる!ならば!!!
「一緒に来た彼女は、よくこのお店に来ていると言ってたんですが最近は?」
「・・・?いえ。まるっきり。あの時、初めてお二人を見ましたが」
「え?そんなはずはないですよ!ここのウインナーコーヒー大好きだって。」
「このお店、暇なんでお客さんが来たら大体顔は覚えてます。来てませんよ。あの方は。」
・・・どうなってるんだ。意味が分からない。まるっきり理解出来ない。
解析不能だ。処理が追い付かない。
俺はお店を後にし、家に戻った。
どういう事だ。ヘロンさんがき・・え・・・た・・・。
失踪?行方不明?もしや、お父さんと!!!心中????
なんて事は考えたくない。
そうだ!ネットだ。ネットでヘロンさんが行方不明になっていないか探してみよう。
事件に巻き込まれているとしたら何かしらあるはずだ。
急いでパソコンを立ち上げると早速検索サイトで調べてみる事に。
気付いてしまった・・・。ヘロンさんの本名を知らない、という事を。事件だ。俺の中の最大の事件だ!
なんてこった。本名がヘロンなんて事があるわけない。
本名だとしたら「私の本名は、へ・ロンです。」か「ヘロ・ン」です、になってしまう。有り得ない。彼女は間違いなく日本人だった。
でも、とりあえずヘロンで検索してみよう。
「ヘ・・・・ロ・・・・・ン」すかさず検索ボタンをクリック。
??????!!!!!!
出てきた画面には「ヘロン」の意味が。
「サギ」・・・鳥のサギ??
「サギ・・・・サギ・・・さ・・ぎ・・・・詐欺???」
「詐欺!!!!!!!!!」
全ての謎が解けた。俺も馬鹿ではない。騙された。東京に出て来て貯めた150万円を。神様のお告げも嘘だった。
あのパーティからの時間は全てが幻だったのか・・・。
ただただ俺は、殺風景な部屋に一人うずくまってすすり泣き、一晩を明かした。
真っ暗な部屋にはパソコンの明かりだけが俺を寂しく照らしていた・・・。
その時ちょっとだけ天から声が聞こえたような・・・。
(サンキュートーキョー・ドンマイソウスケ!)
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