第7話 音信不通

あれから連絡が取れないヘロンさん。

何故?どうして?あなたは返事をくれないのですか?

あれ以来、1か月が過ぎようとしていた。


あの時の俺の昂った気持ちは、日々下がり続けている。

まるで株価大暴落状態になっている。

ああ、どうしよう、このまま連絡が取れないと、俺の心は壊れてしまう。

毎日毎日、来る日も来る日も、ヘロン、ヘロン、ヘロン、と彼女の名前が口から漏れ出てしまう。

今、もし誰かに「おはようございます!」と言われたら間違いなく、

「へローン!」(ハロー)と返すだろう。


そして調子はどうですか?と聞かれたら、

「ヘロンヘロンだよ!」(ヘロヘロ)と言うだろう。


そして、麻雀屋さんでは・・・。アホすぎるが・・・。

「へ?ローン!」と言うだろう。

ダメだ。壊れている。俺は壊れかけのラヂオだ。


恋って、知らなかった。恋って、恋って・・・。

切なくて苦しくて恋しくて悲しくて・・・楽しいだけじゃないんだ。


「恋」とは、幸せと不幸の表裏一体なんだと今日の俺日記に書かないと。

そんな感じで、あれから毎日、俺の心はモヤモヤした状態。

(ヘロンさんのお父さん、大丈夫なのかな?元気になったかな?)

この事が毎日頭から離れない。

あー、どうしよう・・・。何も手につかない・・・。


そんな時だった。

俺の携帯から可愛いメール着信のメロディが鳴った!

「・・・・・!!!!!」


「ヘ、ヘ・・・ヘロンさんだ!」


すかさず俺は携帯のボタンをタップし、着信メールを開く。

そこには長文の彼女からのメールが・・・。


(こんにちは、夢太郎さん。ご連絡出来ず、本当にごめんなさい。怒ってますよね?当たり前ですよね。それでも仕方ないと思っています。でも、どうしても連絡したくて。)


怒ってなんかないですよー。寧ろ嬉しすぎて今、俺の心は天まで届いています!


(実はあれから、お父さんの体の調子がどんどんと悪くなって、手術をしなくてはいけなくなりました。それでも命が助かるかどうか・・・分からないんです。でも、その手術の費用があまりにも高額で、今の私にはどうしても用意出来なくて。実は母はずっと前に他界していて、二人だけで生活していたんです。万が一、父がいなくなったらと思うと・・・実は、お父さんの調子が悪くなる前に少しだけ疲れた自分に気付いて、私の人生、出会いが無いなって思ってあのパーティーに参加したんです。そこで夢太郎さんと出会いました。本当に嬉しかったです。でも、やっぱり私が好きな人を作るなんて無理だったんです。こんな状況になり申し訳ないんですが、今はお会いする余裕がないので、今後は、もうお会いするのは諦めようかと思ってます。どうも本当に申し訳ございません。そして少しの間でしたが、本当に有難うございました。)


な、なんと!どうしよう!

お父さん、そんなに体が悪かったんだ!!

やっぱりあの日、ヘロンさんが少し元気が無かったのはそういう理由だったんだ。

俺に何とか出来ないものか?

このまま会えなくなるなんて・・・考えられない。


俺は咄嗟にメールに返信をしていた。


(ヘロンさん、ご連絡有難うございます。すごく大変な状況なのに、この間はお時間作ってくださり、本当に有難うございました。僕にも何か出来ないかな?と思い、色々考えたんですが、少しなら貯金があります。もし、お役に立てるならと。でも、逆にそんな事、迷惑かな?とも思ったんですが。僕としては、ヘロンさんと会えなくなるなんて、本当に嫌で。)


俺は勇気をもって送信ボタンを押す。

気持ちは決まっている。

絶対に会えなくなるなんて、考えられない。

初恋をこんな形で終わらせる事は出来ない!


するとすぐにメールの着信音が鳴る。

ヘロンさんからの返信だ!


(でも、そんな事、夢太郎さんにお願い出来ません。お気持ちだけ有難く受け取っておきます。お優しいんですね。本当に有難うございます。)


更にしつこく返信。


(いえ!大丈夫です!頼ってください!貯金していましたが、きっとヘロンさんの役に立つためなんだと俺の中の神様が言ってます!150万円ならあります!足りないかもしませんが、協力させてください!)


更に着信。


(え!ちょうど150万円が必要だったんです。でも、そんな大金を。やはり無理です。お借りするなんて。)


更に更に返信。


(いや、ちょっと待ってください!寧ろ、貸したいです!!私のお金もそう言ってます!ヘロンさんの方が良いって言ってます!)


更に更に着信。


(なんだか、嬉しすぎて泣いちゃいました。有難うございます。本当に私は夢太郎さんに甘えていいんでしょうか?)


とにかく返信!


(勿論です!どんどん甘えてください!甘えてもらいたいです!ヘロンさんに!)


来たー!着信!


(有難うございます。そのお気持ち、絶対に忘れません。本当に本当に感謝です。夢太郎さん、有難うございます。)

______


その後、俺はヘロンさんから聞いた銀行口座に二日に分けてお金を振り込んだ。

何とも言えない充実感と、これでお父さんが助かるかもしれないという気持ちで感無量だった。貯金とはこのように使うんだよ、と、世の中の男子に教えたい。

そしてお金は時に、気持ちと気持ちを繋ぐものなんだよ・・・と。


すっかり俺はイケメン気分になっていた。


そんな俺は、暫くヘロンさんが忙しいと思い、こちらからの連絡は少しだけ控えておく事にした。

広瀬壮介!待ちます!!






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