第5話 出会いパーティ ~第二ラウンド編~
目の前にいるヘロンさんともう一度話せるのかと思うと気持ちが昂ってしまう。
その気持ちを抑えながら目の前のヘロンさんを見ようとするが、彼女の目だけはまともに直視出来ない。。
「良かったです。もしかして他にも夢太郎さんと話したい人がいたらどうしようかって・・・少し不安でした。」
なんでしょう。この「不安でした」って言葉は。俺が今まで使っていた「不安」とは種類が違う。「殴られ過ぎて不安」とか「無視されすぎて不安」のような使い方しか知らなかった。「不安」という言葉は時に相手に幸せを与える言葉になるんだって初めて知った。今でも知識の伸び代がある自分に乾杯だ!
「いや、僕こそ、ヘロンさんが・・・また来てくれて・・・嬉しいです。」
「え!本当ですか!私、今日は凄く運が良いみたいです!実は朝、神社で手を合わせてきたんです。それが効果があったのかも!」
なんてこった。そんなに・・そんなに俺との時間を・・・。ヤバすぎる。自分で気付かなかったが俺はもしかしたら・・・かなりイケメンなのかもしれない。
神頼みまでさせてしまった俺はなんて罪な男なんだ・・・。
「良かったです。でも15分間何を話せばいいか、いまだに緊張していて。でも、ヘロンさんと会えた事が今日の一番の実りです。」
「私、夢太郎さんがこの後、私の所に来てくれたら。今はそれが一番の望みです。他の人に取られたくないので、だからもう一度お話したいと思ってお願いしました。図々しいですが、いつかお茶でも出来たらいいなと思って。」
「本当にですか!ぜひ!お会い出来たら嬉しいです!」
茨城で俺を甚振っていた奴ら、見ているか。これが君らの知らない東京さ。
ここでは寧ろ俺の方が天下なんだ!お茶したいとか言われてるんだぞ!
「私・・・期待しちゃっていいんですかね・・・。」
「も、も、勿論です!」
「じゃ、後で・・・。でも万が一ダメだったらどうしよう。なんか不安で胸が押し潰されるような気持ちです。私、信じて待ってますね。夢太郎さんの事を。」
俺の頭に木霊する(待ってますね・・・待ってます・・・まって・・・て)
やばすぎる。人生で今が一番、自分の持っている能力で処理出来ない状態だ。
家に帰ったら頭をWINDOWS MEにバージョンアップしないと。
そんなやり取りであっという間に15分間が過ぎた。
その後の女性からのもう一人選んで話すトークタイム15分間は、ヘロンさんは誰の事も選ばず、周りで他の人の話している様子をただただ見ているだけだった。
たまに目が合うかな?と思って彼女を見ても下を向いている事が多かった。
そうか、かなり緊張しているんだな。大丈夫です。俺が迎えに行きますので。
心に「お願いします!」の準備をする時間があるだけでだいぶ違う。
人ってこうやって恋に落ちるのか。あまりにも初めての経験過ぎて。でも、最初の出会いで決まるならこんな幸せな事はない。凄いぞ俺! 1戦1勝! 負けなしだ!
そして、俺にとって長い15分が過ぎようとしていた。
「はい!皆さんこれで二度目のトークタイムは終了です。それでは皆さん、元の席に戻ってください。準備はいいですか?」
全ての男性陣が緊張しているのが伝わる。中には過呼吸になりそうな顔の奴まで。
でも、申し訳ないが俺は決めさせてもらうぜ!と、心で伝える。
___そしていよいよ告白タイム。
待っててください。ヘロンさん。貴方の想いは俺の腕の中に、いや、心の中にあります。この想い・・・に、リボン付けて届けます。
「えー!それではですね。1番のくまちゃんさんからお願いします!」
そして1番のくまちゃんがゆっくりと立ち上がり天を仰いだ。
まるでラオウのようではないか!!
そして目を閉じ深呼吸してゆっくりと目を開ける。
あまりにも小粒な瞳は目を開けているのか分からなかったが彼の決意は通じた。
行けラオウ!…じゃなかった。くまちゃん!!
「3番のチャチャさんの所です!それでは告白タイムどうぞ!」
「あ、あの、あまりお話し出来なかったですが今度また是非お会いしたいです。」
くまちゃんが目を力強く閉じ凄いスピードで頭を下げる。そして自分の右手をチャチャさんにゆっくりと伸ばす。伸ばしている手が、少し震えているのが分かる。
周りにいる男性陣の目はくまちゃんさんの伸びた手に集中している。
・・・さあ、どうだ、くまちゃん・・・くま・・くまーーーーーー!
俺は心の中で叫び声を上げ、くまちゃんを応援していた・・・が、しかし
「ご、ごめんなさい・・・お気持ちだけ・・・」
その瞬間、男性陣全員の顔が「あーーー!」みたいな顔になっていた。
ちなみに・・・俺も。「あーーー」の顔だったに違いない。
撃沈だ。くまちゃん、悲しむ事はない。次こそ頑張れ。
俺は気付かないうちに上から彼を見下ろしながら心で伝えていた。
そしてその後、二組が上手くいった。
いよいよ俺の番だ。
「それでは7番の夢太郎さん、お願いします!」
「はうい!」
やばい、緊張で「はい!」と言うつもりが「はうい!」になってしまった!
なんてこった!気を取り直していくぞ。
「さあ、夢太郎さんはどなたに行くのでしょうか!」
司会者のマイクの声が会場一杯に響き渡る。
俺は立ち上がり真っすぐヘロンさんへと向かった。
まるで走れメロスのようだ。突き進め。真っすぐに。
ごくっと唾が喉を通るのを感じる。
今、俺の五感は日本人の中で一番敏感かもしれない。
「夢太郎さんはヘロンさんの前に立ちました!それではどうぞ!」
緊張しすぎて俺には司会者の叫ぶ声がほとんど聞こえなくなってきていた。
ヘロンさんは俯いたまま微動だにしない。
「ヘロンさん、どうぞよろしくお願いいたしまーす!」
カッコ悪い所を見せたくない俺は渾身の力で手を伸ばし、そして自分の中の「気」で震えを止める。伸びきった手が人生で一番輝いている気さえした。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
ヘロンさんの手が俺の手を握っている!!!人生初、手を握るの巻!
会場中が興奮し、叫び声が上がっていた。俺の中ではF1で優勝した時の感覚でウィニングラン状態で笑顔を振りまいていた。
・・・・生きていて・・・良かった・・・。
瞬間、頬を流れる黄金の1粒の涙を俺は感じていた。
ありがとう、トーキョウー!
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