第4話 出会いパーティ ~回転トーク編~

さあ、待ちわびた時間だ。「壮介!行きます!」と、心の中でガンダムで出動する時のアムロのように叫ぶ。


「あ、初めまして・・・夢太郎28歳です。仕事は電気機器の営業をやってます。」

若干声が震えてしまっている。

相手に気付かれたら恥ずかしい・・・どうしよう。

自信を持て!壮介!と、自分の震えてる膝の上の左手を右手で握り固定する。


「初めまして。ヘロンと言います。」


「ヘロンさんですか・・・可愛いニックネームですね。」


とりあえず滑り出しはまあまあかもしれない。


「実は、僕はこういう所来るの・・・初めてなんです。」


「え?私もです。良かった、同じような人がいてくれて」


照れ笑いする彼女の笑顔が眩しすぎる。

正直、人生で初めて仕事以外で面と向かって女性と話した。

う、う、嬉しい。彼女の瞳には照れてる俺が映っているではないか!!

その眩しすぎる光で日焼けしそうだー!!


「そうなんですね。でも何を話していいか・・・いざ目の前に女性がいると緊張して。」


「えー!私なんかに緊張しないでくださいよ!でも真面目な方で・・良かったです。」


(やばい、口元から見える八重歯・・・可愛すぎる。)

貴方は小悪魔かーーーーい!


「今は一人暮らしなんですか?私は実家暮らしで。」


「あ、はい、茨城から10年前に出てきてからずっと練馬の方に・・・狭い部屋を借りていて、それからずっと同じ所に住んでいて変わってないんです。引っ越しも面倒だし、会社も近いので。」


(人生初、プライベートの事を相手から聞かれるの巻じゃーないですか!)


「でも、えらいですね。一人で生活していけるなんて。私なんか親に甘えっぱなしで。ダメな子なんです。夢太郎さんは自炊とかもするんですか?」


自分をダメな子とか言って可愛いの言葉を1000回与えちゃいます!


「いや、いや、女の子・・・あ、女性の方は同居の方が親御さんも安心ですよ。あ、自炊。・・・たまにですかね。」


(しまったー!嘘つきかー!お前はいつもカップラーメンじゃないかー!月に一回ご飯炊いてミックスベジタブルで一緒に炒めてチャーハン作って自炊のつもりかーー!!)と、突っ込みつつも、


(なんだか相手が話しかけてくれるお陰でスムーズに話せてる感じが嬉しい。すでに5000円分の喜びをゲット!むしろ喜びは倍だ。)


「ヘロンさんは本当に彼とか・・・いないんですか?なんだか、凄く素敵なのに。」


「え!いませんよ!いたら来てませんし・・・。でも素敵とか言われてちょっと嬉しいかもです。」


(やばい、はにかんでいる君の笑顔は100%じゃないですか!!嬉しい・か・も・・だってーー!!)


「夢太郎さんこそ、凄く話していて優しいし、本当は結構モテるんじゃないですかー?」


(え?!!今モテるんじゃないですか?と聞きました?もう一度言ってもらってもよろしいでしょうか?もう一度聞きたいですー!・・・心の声が俺のリアルを邪魔してくる。)


「そんな事ないですよ!・・・全然モテませんよ!」

なんだかこの答え、謙遜てやつか?カッコ良すぎないか俺!


(やばい、ヘロンさんからの言葉で、それから話していた事がほとんど頭に入らなくなってるぞ・・・。処理が追い付かない。まるでwindows95のレベルだ。アップデートするんだー!)


「はーい!皆さん、時間です!10分が経ちました。男性の方、席を移動してください!どんどんいきますよー!楽しい時間はまだまだ続きますよー!」


司会者から声が掛かる。いや、10分間とはインスタントラーメン作るよりも短いのか?本当なら3個も作れるんだぞ!間違いじゃないのか!あなたの時計、壊れてませんか?楽しい時間?貴方の楽しい時間という言葉は地獄の時間にしか聞こえませんけど??

___


俺の中の楽しいヘロンさんとの時間は流れ星が落ちていく位のスピードで終了した・・・。


その後は次々と相手が変わるが何一つ楽しいと思う事もなく、ずっとヘロンさんの事を横目で追っている自分がいた。常に彼女の口元から垣間見える八重歯が愛おしく感じられる。そんな事をしている間に今日の最初のラウンドは終了した。

お願いだ。ヘロンさん。第二ラウンド、声掛けてくれませんか!

心の声が俺の頭の中で山彦の様に何度も反響し、繰り返し木霊する。


「それでは、女性の方で、もう一度話したい方がいましたらその方の所へ行ってください。」


目を瞑り頭を下げて待つ。

手を握る俺の一本一本の指の間には有り得ないくらいの汗が滴り落ちる。

神様、お願いだ、こんな時こそ、現れてくれ。神様、本当はいるんだろ?今まで出て来なかった分、一度でもいいから願いを叶えておくれ。ブッタでもキリストでもアラジンでもなんでも良い!今側にいる神様なら何でも!!!ドラえもんでもいいぞ!


__・・・皆さん、神様っているって知ってました?私は知ってます。__


「夢太郎さん、あの、良ければもう一度お話ししてくれませんか?」


俺の頭上から天使の声が。すぐさま顔を上げる俺の目の前にヘロンさんが!!

マジかーーーー!今日の俺の側にいた神様は天使でした!

お、落ち着け俺!カッコ悪いとこ見せるな。そうだ、彼女が勇気をもって来てるんだぞ。温かく迎えてやれ。別の神様が俺にアドバイスする。


「・・・!!!!あ!え?・・もちろんです!」


「良かったー。また話せるなんて私はラッキーです!」


目の前のヘロンさんはもはや天使であり、上京してからの10年を簡単にバラ色に変えてくれた。しかも俺と話せる事をラッキーだなんて!こっちの方が無茶苦茶ラッキーですやん!


凄いぞ東京!待ってました!この時を。

28歳、広瀬壮介さらに出動します!!




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