第47話


 ガコンッ。

 留め具が外れた時のような音が鳴ったかと思うと、目の前に突如として何かが現れた。

 立体的に浮かび上がっている、円形の光だ。


「これは……魔法陣ですね」


「魔法陣?」


「ええ、恐らくですが、地上に帰還するためのものなのかと」


 迷宮の最奥にいる守護者を倒した場合、このようなものが出現することが稀にあるらしい。 たしかにバルネラの素材を持ちながら深層を抜けるのはなかなかにしんどい。

 守護者を討伐したご褒美、のようなものだろうか。

 

「とりあえずこの状態であまり長居はしたくない。さっさと行くか」


「え、ええ、そうですね……」


 ミーシャは首元の汗を拭うこちらの様子を、ジッと見つめていた。

 回復で傷を癒やしてもらった今の俺は、ほぼ全裸だ。

 鎧は完全に壊れてしまっており、まともに着ることができないため既にミーシャに持ってもらっている。


 ボロボロだった鎧下は廃棄したため、現在は上半身裸。

 ちなみにズボンもやられたため、下半身はパンツ一丁だ。


「蛮族スタイルに戻りましたね……」


「何も着ないのは楽でいいな。いっそのことパンツを脱いだらより開放感が増して……」


「脱ぎだそうとしないでください! 全裸で街に戻ったら捕まりますよ!」


「そうか」


 とまあ冗談はこれくらいにしておいて、体内の魔力を圧縮させ、爆発させるために準備をし始める。


 バルネラは持ち運ぶのにも一苦労だ。

 次の戦いに必要な分の素材だけを持ち帰るつもりだったが、魔法陣とやらでまるごと持ち帰れるのならそれに越したことはない。

 全身に纏っていたマグマは結構重そうだったので、アズロナで削らせてもらった。


 準備をしてから、ミーシャが冷やしてくれたバルネラに手をかける。


「ふんぬううううううっっ!!」


 バルネラをまるごと持ち上げる。

 とんでもない重量だ。

 これはそう長くは持ってられないな。


「あ、暑苦しい……」


 ちょっと引き気味の声を出しているミーシャの声を背後から聞きながら、俺は目の前の魔法陣へと向かっていく。


 ふわりとした一瞬の浮遊感の後、周囲の光景が一瞬で切り替わる。


 再び感じる重力感に、腕に力を込める。

 バルネラの巨体を持ち上げているせいで、腕の筋肉が音を立てていた。

 

 辺りを確認すると、ここはどうやらバルネラ火山の広場のようだ。

 なるほど、魔法陣を抜けるとここに出てくるのか……。


「なっ……」


「なんだありゃあっ!」


 周囲の人間達は、突然現れた俺に目を白黒させている。

 あちこちから叫び声が聞こえたかと思うと、大騒ぎになり始める。

 騒ぎを聞きつけた衛兵達がこちらにやってくる。

 だがどうやら彼らは事前にこの現象を知っていたようで、周囲の人員を整理するとスペースを確保してくれた。


「よっこら、せっ!」


 ドスンッ!!


 バルネラを地面に投げると、その重量で地響きが起こった。

 これだけ重たいものを持ったのは久しぶりだからか、わずかに腕が痺れている。

 まだまだ鍛え方が足らんな。


「失礼ですが、この魔物は……バルネラでしょうか?」


「――ああ」


 先ほどまで聞こえていた喧噪が、一瞬で消える。

 そして生じるのは――爆発的な歓声。


 こうして俺は無事バルネラを討伐し。

 久しぶりの守護者討伐に湧いたグラバドの街は、どんちゃんとお祭り騒ぎを始めるのだった――。

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